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チームを作る 誰がDBを作るか、プロデューサーは誰か現場ルポ・被災地支援とインターネット

» 2011年04月14日 17時49分 公開
[藤代裕之,ITmedia]

大震災の情報源としてインターネットが活用されているが、被災地からネットで発信される情報はあまりに少ない。震災被害はこれまでの経験と想像すら超えており、ネットにおける被災地支援、情報発信も従来のノウハウが通用しにくい状況だ。

ブログ「ガ島通信」などで知られる藤代裕之さんは現在、内閣官房震災ボランティア連携室と連携している民間プロジェクト「助けあいジャパン」に関わっている。ネットを使った被災地支援の「現場」では何が起き、何に直面しているのか。ネットという手段を持つるわたしたちには何が求められているのだろうか。震災とネット、情報を考える、マスメディアには掲載されにくい「現場」からの現在進行形のルポとして、藤代さんに随時報告していただきます。(編集部)


▼その1:「情報の真空状態」が続いている

▼その2:できる範囲でやる──ボランティア情報サイトの立ち上げ

▼その3:「ありがとうと言われたいだけのボランティアは 必要としていない」

▼その4:ターニングポイントになった夜

 ボランティア情報のデータベースを作るにあたり課題は2つあった。1つはデータベースそのものの設計と開発、もう1つはボランティア情報の収集だ。それぞれの課題を解決できる人物を探すことにした。助けあいジャパンも、まとめサイト同様にボランティア活動で行われている。「人、物、金」と言われる経営資源のうち、金と物には頼れない以上、人こそが最も大切な資産であり、プロジェクトの成否を左右する要因だった。

求められるのは柔軟な要件定義とスピード

 Webサービスを作る大原則は技術者への尊敬だ。Webサービス開発やR&Dを経験して分かったことは、コードを書ける人間こそが主役ということだ。技術者抜きでWebサービスは成り立たないにもかかわらず、新サービス担当や企画部門が下請けのように技術者に接しているとうまくいかない。

 一方、多くの場合、技術者だけでいいサービスが出来るわけではない。技術者は時に、技術そのものの向上に目を向け、誰のためのサービス化を忘れてしまうこともある。優秀な技術者ほど頼まれると期待に応えようと複雑な仕組みも実現しようとする。ボランティア情報のデータベースでも、プロジェクト全体の中から優先順位をつけながら、技術のことも分かるという広い視野と決断力があるプロデューサーが必要だった。

 また、データベースもさまざまだ。IT企業、ネット企業でもデータベースの難しさを理解していない人も多い。さらに、B(ビジネス)向けではなく、C(コンシューマー)向けサービスを作った経験者のほうが適している。企業内で使われるデータベースであればオペレーターや複雑なマニュアルを整備することでデータ入力の間違いを減らすことができるが、被災地や支援拠点で使われるとすると、一般のWebサービスのように「どう使われるか分からない」ことを想定しなければならない。

 スピードも優先された。最初はシンプルで、利用が進むにつれて機能を追加していく冗長性の高いデータベース設計が求められる。データベースは整理されていないと使いづらいが、細かな用件定義(どのようなデータベースにするか話し合うこと)をしていると、情報を必要としている人に届けることが延びることになる。この矛盾した状況に折り合いがつけられるかどうかがポイントだった。

元ヤフー・岡本氏に打診

 自分自身が直接技術者とやりとりしてもよかったが、データベースについては経験がなく不安があった。プロジェクトが始まればほかにも多くの業務が発生するし、信頼できる人物に任せ切ることが大事になる。まとめサイトを作ってきたチームにはWebサービス開発経験者もおり、技術力とディレクション力を備えた人がいたため、データベースのプロデューサーがいれば、データベースの設計・開発から、ボランティア情報の収集から入力というスキームを心配することがなくなる。

 人物には心当たりがあった。ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)の岡本真氏だった。元ヤフーで、検索、QAサービスの知恵袋やYahoo!ラボを担当。研究機関へのAPI提供も担当した経験があった。ヤフーに入る前は編集者で情報やメディアについても詳しかった。岡本氏とはこれまで一緒にWOMJのガイドラインの策定やWebプロデューサーの勉強会をしたこともあり気心も知れていた。

 佐藤尚之氏との議論が続いた翌日に品川駅構内のカフェで相談をする約束を取り付けた。適任者をピックアップしてもらい、一通り聞いた後、岡本氏にプロジェクトに関わってもらえないかと打診した。「1週間後に出張があるので、そこまでまずやりましょう」との返事をもらいプロデューサーの目処はたった。

ボランティア情報収集に田中氏が参加

 もう1つ。情報を収集する側だ。短い期間だったがまとめサイトを運営した経験から、ボランティア情報はPCの前でネットを巡回していても十分に拾いきれないことが分かってきた。社会福祉協議会やNPO・NGOと連携することでボランティア情報を提供してもらえるのではないかと考えた。マスメディアやWeb人脈はあったが、ボランティアとは縁遠く、知り合いがいなかった。すぐに適任者が見つからず悩んでいたと時、ふとPCを見たら、チャットに田中康文という名前があるのに気づいた。

 田中氏はオーマイニュースのオ・ヨンホ代表の通訳として知り合った。元日本経団連の職員で、NPO法の設立に関わり、シーズ=市民活動を支える制度をつくる会のプログラム・ディレクターや千葉県NPO活動推進委員も努めていた。

 チャットにメッセージを打ち込んだ後、電話してプロジェクトに参加してくれるように依頼した。田中氏は既に韓国とのネットワークを利用して、震災に対して国際的なアプローチで何かできないか探っており、話はかなり進んでいたが、最終的には参加してくれることになった。田中氏に、NPO・NGO団体、各種ネットワークをつないでもらいボランティア情報の提供を受ければ、ネット上だけの情報を検索、収集しているまとめサイトに比べ、情報が充実するだろう。情報の入力は、まとめサイトの学生ボランティアが頼りになる。なんとなくカタチらしきものができた。だが、データベースを作ってくれる技術者についてはまったく目処がたっていなかった。

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