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震災の記憶、未来へいかにつなぐか──デジタルアーカイブの挑戦(1/3 ページ)

» 2011年12月28日 17時14分 公開
[榊原有希,ITmedia]

 東日本大震災の記録を後世に残そうと、写真や動画、サイトなどを収集保存してインターネット上で公開する「デジタルアーカイブ」の取り組みが今年、本格化した。通信可能なデジタル機器が普及し、誰でも手軽に記録できるようになったことを背景に、Google、ヤフーといったネット企業や研究機関などによって多様なプロジェクトが立ち上がっている。その反面、ネット上での公開や2次利用の手続きが煩雑な著作権問題など、デジタルアーカイブの抱える課題は少なくない。どうしたら東日本大震災の記録を利活用し、未来へ伝えていくことができるのか。試行錯誤が始まっている。

 震災直後、ネット企業の動きは迅速だった。既存のサービスを活用して、デジタルアーカイブに取り組んだのは、Googleだ。「発生から1週間後に復興を見据えた中長期的なプロジェクトの議論を始めていました。その中で、震災前の景色やコミュニティのお祭りなど思い出の映像をデジタルアーカイブとして集めることで、みんなを勇気づけられるのではという意見が出ました」とGoogleシニアマーケティングマネージャー、馬場康次さんは話す。

photo 陸前高田市の避難所に設置されたキオクポスト

 YouTubeやPicasaなどGoogleが提供しているサービスに専用のタグをつけて写真や動画を投稿してもらう方法でアーカイブを作成、「未来へのキオク」として5月に立ち上げた。被災地の避難所に「キオクポスト」を設置し、震災前の風景など被災者の人が見たいと思うテーマも募った。

 「実際、どう役に立つのか100%の確証がない中、まず集めることが大事という意識でスタートした。未来へのキオクは、ネット上のオープンなプラットフォームを使った、デジタルアーカイブのひとつのショーケースになればと思っています」と馬場さん。現在では、5万1千点以上が閲覧可能で、12月13日からはストリートビューで被災前後の風景を公開している

 Googleとほぼ同時期に立ち上がったのは、Yahoo!JAPANによるデジタルアーカイブ「東日本大震災写真保存プロジェクト」だ。4月から被災地の写真を募集、独自のシステムを構築して6月に公開を始めた。きっかけは、ユーザーからの声。「ヤフーでは地図サービスを提供していますが、その航空写真に津波に流される前の被災地が写っていた。これを見たユーザーの方から、ぜひ残してほしいと要望がありました」とヤフーR&D統括本部開発1部部長、高田正行さんは振り返る。

photo Yahoo!JAPANの「東日本大震災写真保存プロジェクト」に投稿された震災当日の岩手県釜石市の写真

 また、ヤフーでは発生直後から多くの社員がボランティアとして被災地入りをしていた。「社員からも、一瞬一瞬で被災地の状況が変わっているという報告があった。失われた町並みや変わってゆく風景をネットで手軽に見られるよう、誰かがデジタルアーカイブの場を提供しなければという機運が社内でも高まり、手を挙げました」。現在、「写真保存プロジェクト」では4万7千点以上の写真が閲覧可能で、地図情報やブログなどのテキスト情報とも連動している。10月からはGoogleと連携し、両プロジェクトに寄せられた映像は「写真保存プロジェクト」と「未来へのキオク」双方で見ることができるようになった。

 「今回の震災を受けて、デジタルアーカイブはかなり普及すると思っています。これまでデジタルアーカイブという考え方は、図書館など一部の人たちにしか知られていませんでした。しかし、現在は震災を記録、保存する重要性が指摘されていますので、意識も変わってゆくのでは」と指摘するのは、アカデミック・リソース・ガイド代表取締役、岡本真さんだ。

 岡本さんは震災直後、博物館や美術館、図書館などの施設の被災、救援情報を集約するプロジェクト「save MLAK」を立ち上げた。3月11日時点の商店や観光協会、寺社などのサイトについても、地域の記憶のため記録保存を呼びかけている。「今まで大きな災害が起こると文化施設は後回しでしたが、できることを先取りしてやろうと思い、まずは被災状況の確認を始めました。アーカイブは記録しておくことが大事です。把握できた被害を後で分析すれば、同じような災害が他の地方で起こった場合、対策が立てられる。記録されないことは、記憶されません」とアーカイブの必要性を説く。

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