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「研究してみた」に価値を──「ニコニコ学会β」が目指す新しい学会のかたち(1/2 ページ)

» 2012年04月26日 15時30分 公開
[榊原有希,ITmedia]
photo 昨年12月に開かれた第1回ニコニコ学会β

 学会といえば、閉鎖的で退屈なもの。そんなイメージを覆す、新しいユーザー参加型学会が4月28日、29日、ニコニコ動画のイベント「ニコニコ超会議」で開かれる。その名も「ニコニコ学会β」。学会としては珍しい、ネットで支援金を募るクラウドファンドレイジングを採用、22日には目標額の100万円を達成して注目度の高さを証明した。

 シンポジウムではプロとアマの境界を超えて“野生の研究者”らが集結し、ロボットや未来の乗り物などの研究を披露。「Winny」開発者、金子勇さんも登壇、イノベーションと社会規範について議論する。

「ニコニコさせる研究の場」に

photo ニコニコ研究会委員長の江渡浩一郎さん

 ニコニコ学会βのプロジェクトは昨年夏にスタートした。独立行政法人・産業技術総合研究所の研究員で、メディアアーティストの江渡浩一郎さんが、ある学会のネット配信をニコニコ動画に依頼したことがきっかけだった。「ニコニコ動画と何か研究イベントを一緒にできないか」と構想を練っていく中、江渡さんが共感したのが、ニコニコ動画がユーザーに向けて発信している指針、「ニコニコ宣言」だ。

 「そこには、『ニコニコは無機的な集合知ではなく人間のような感情を備えた集合知を目指します』とありました。僕の専門である集合知の研究では、一般的に統計的処理が行われ、あるキーワードに対し、ポジティブだったりネガティブだったりといった評価を出す。しかし、集合知にはもっと複雑な感情モデルがあります。それを一切省いて、データからある定量的なものを抜き出す研究に違和感を持っていました。ニコニコ動画の人たちも同じことを考えていたことが、非常に面白かった」

 また、ニコニコ宣言では「ニコニコはネットサービスをユーザーと双方向につくりあげる作品として提供します」とも掲げられている。CGM(ネットを利用して消費者が自ら生成するメディア)というあり方にも、江渡さんは興味を抱いたという。「新しいことをやるだけでなく、既存の学会は何がだめなのか、作り直すならどういうものならいいのか、色々な人に話を聞いていきました。企業が研究業界と組んでシンポジウムを開くという例はありますが、ユーザーが主体となった方が面白いし、広がりがある。そうして、『ユーザーと双方向で作る、ニコニコさせる研究の場』という、学会のコンセプトに行き着きました」

photo ニコニコ研究会事務局長の岡本真さん

 昨年12月、江渡さんが委員長を務めるニコニコ研究会の主催で開催された第1回ニコニコ学会βがニコニコ動画で放送されると、予想以上の反響を呼んだ。特に「研究100連発」というセッションでは、5人の研究者が20本ずつ、千本ノックのごとく研究を発表。「そこで、アクセス数が一気に上がりました」と振り返るのは、アカデミック・リソース・ガイド代表で、ニコニコ研究会事務局長の岡本真さん。「『研究者すごい!』とユーザーからの声が上がりました。ニコニコ動画には、ユーザーが投稿する『歌ってみた』や『踊ってみた』というジャンルがありますが、『研究してみた』も面白いと感じさせることができた」

 学会中継はせいぜい数千アクセスが限界という常識を破り、異例の11万人もの視聴者数を記録。当初、ニコニコ学会は若手中心に始まったが、ベテランの研究者からも注目を集め、規模を拡大して、千葉・幕張メッセで開かれるニコニコ超会議の中で第2回が開催される運びとなった。「前回は、東京・六本木のニコファーレで行われたので観客数も制約がありましたが、今回は何万人も来るイベントで、他のコンテンツと並びます。研究をコンテンツとして面白いと思ってもらえるか、勝負です」と運営サイドは気合いが入っているという。

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