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菊ねえちゃん論──「リンかけ」と「星矢」と女性の社会進出部屋とディスプレイとわたし(3/5 ページ)

» 2012年11月22日 16時44分 公開
[堀田純司,ITmedia]
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 ひるがえって現代、たとえばライトノベルの世界をのぞくと「拝啓、姉上さま」といった作品もあるわけで「今こそ、姉。時代は姉。菊ねえちゃんの時代ではないかっ!」と思うのですが、しかし姉が、自分の青春を捨ててでも未来を弟に託すというこの構図は、その後、大きくは継承されなかったように思います。

 ただなのですが、考えてみればこれは必然だったのかもしれません。「リングにかけろ」の連載がはじまったのは1977年。日本社会では高度経済成長期を通して核家族化が進行し、男子が外で働き、女性が家庭を守る、というライフスタイルがひとつの形となって行きました。

 女性の社会進出というと、M字型を描く、と言われます。学校を卒業した時点でまず就職する。しかし結婚を期に家庭に入り、子育てが落ち着いた時期にまた外に出て働きはじめる。ただし、その多くはパートのような非正規雇用の職業です。

 「リングにかけろ」が舞台としたのは、作中でも描かれたように、日本が高度経済成長を経て、すでにバブル期の到来を予感させる高度消費社会へと足を踏み入れていた時期ですが、やはりまだ「男が前衛。女性は後衛」の時代でした。

 菊ねえちゃんがいかに才能を持った女性であろうとも、自分の青春をふみ台にしてかけ上がれとまで覚悟し、あくまで弟のサポート役に徹するのは、ある意味で自然のことでした。そもそも日本社会において「リングの上で戦う女」に出番はなかったのです。

 作中でも、菊ねえちゃんは弟のために進学もあきらめ、中学を出るとすぐ働きはじめます。そしてやがて竜二の宿命のライバル、剣崎順と結婚しました。

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