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TPP問題は農業・医療だけじゃない 知財・著作権関連の論点は

» 2012年12月13日 12時03分 公開
[ITmedia]
画像 イベントの様子はニコニコ生放送でライブ配信された

 TPP問題は、農業・医療・自動車だけじゃない――クリエイティブ・コモンズ・ジャパンと著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム(thinkC)、インターネットユーザー協会(MIAU)は12月12日、TPP交渉の公開を求める「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム」の設立キックオフイベントを開いた。

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は、アジア太平洋地域を中心とした参加国間で、人やサービスの移動を自由化したり、関税を撤廃しようという国際協定。日本国内の報道は農業や医療、工業の問題に偏っているが、米国が提案しているとされる知的財産権関連条項も、日本の文化に大きな影響を与える可能性がある。

 同フォーラムは、「TPP自体にはニュートラル」としつつも、知財関連の条項の内容に危惧を抱いている団体の集まり。秘密協議となっているTPPの公開協議化を求め、それが実現しない場合は知財条項を除外するよう、政府に強く求めていく。

 12日に開かれたイベントには、弁護士の福井健策さん、弁護士でクリエイティブ・コモンズ・ジャパン常務理事の野口祐子さん、漫画家の赤松健さんなどが参加。TPPの知財関連条項を整理し、論点を洗い出した。

保護期間延長、著作権侵害の非親告罪化――知財分野の条項は

 TPPの交渉範囲は貿易や競争政策、労働、知財など21分野にわたるが、「米国は知財分野を最重要に位置づけている」と福井弁護士。「米国は海外からの特許・著作権使用料収入が9.6兆円と、自動車、農産物をしのぐ金額。米国にとって知財は最大の輸出産業」のためだ。

 TPPは厳格な秘密交渉が貫かれており、交渉内容は非公開だが、昨年2月、知財関連を含むいくつかの章について、米国提案が流出。「知財の強化、アメリカ化と言える内容」が含まれていると福井弁護士は危ぐする。

 知財関連の主な条項は、(1)著作権保護期間の20年延長、(2)著作権侵害の非親告罪化、(3)著作権侵害に対する法定賠償金の導入、(4)いわゆる「3ストライクルール」を含む不正流通防止関連事項――だ。

 (1)著作権保護期間の延長は、以前から米国が日本に要求しており、「過去FTAでも入ってきたメニュー」(福井弁護士)だ。日本では2006年から、延長を支持する権利者側と、延長に反対するユーザーらの間で激論が交わされ、延長が先延ばしになった経緯がある。

 (2)著作権侵害の非親告罪化もこれまで、国内で繰り返し議論されたものだ。著作権侵害が非親告罪化すれば、権利者の告訴がなくても罪に問うことができるようになる。パロディや同人誌など、著作者の黙認のもと“グレーゾーン”で流通している2次創作への萎縮効果や、悪意のある人によってクリエイターが告発される――といった影響が懸念される。

 (3)著作権侵害に対する法廷賠償金は、実損害の証明がなくても、裁判所がペナルティ的な賠償額を決められるというもの。米国では、1作品当たり最大15万ドルまでと高額の賠償金定められており、日本に導入されれば、賠償金目的の知財訴訟が増えることが懸念される。

 (4)には、DVDなどコンテンツのDRMを外して視聴する「DRM単純回避」の規制や、著作権侵害を3回繰り返した人のネット接続をISPが切る「3ストライクルール」などの導入が含まれている。

「国民全員が利害関係者」 交渉オープン化で国民的議論を

 TPPは秘密交渉だが、知財関連の条項は「国民全員が利害関係者」(野口さん)だ。フォーラムは政府に対して、条文や交渉をオープン化を訴え、国民的議論を巻き起こしたい考え。オープン化が不可能なら、知財条項をTPPの対象から除くことを参加条件にするよう、政府に求めていく。「通商交渉は秘密が当たり前と政府は言うが、過去に透明性が担保されていた通商交渉もあった。オープン化は、できないことではないはず」(野口さん)

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