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» 2013年06月07日 14時36分 UPDATE

SEから世界一に返り咲き 「TED 2013」に唯一出演した日本人・BLACKさんのヨーヨーと“再起” (2/3)

[岡田有花,ITmedia]

 この状態を抜け出さなくては。だが、ヨーヨーだけでは暮らせない。悩んでいる最中、ネットで偶然見つけたのが、アスリートの第二の人生を支援する転職サポートサービス。わらにもすがる思いで連絡して相談し、適職診断を受けたところ、自分が本当にやりたいことが分かった。

 「俺はヨーヨーやりたいんだ」と。

退職、優勝、シルク・ドゥ・ソレイユ登録

 07年3月末。勤めていた会社を退職。派遣社員として定時で働く傍ら、芸術性・パフォーマンス性の高いヨーヨー演技を作り上げていった。

 技術ではなくパフォーマンスを極めるヨーヨーは、前人未踏の世界だ。参考にしたのは、ジャグラーのヴィクトル・キー氏の演技。DVDやYouTubeの映像を何千回、何万回と再生し、音楽との融和性などを学び、自らの演技に反映していった。

 努力は着実に実を結び、その年のヨーヨー世界選手権で世界一に返り咲き。新設された「アーティスティックパフォーマンス部門」で優勝し、世界選手権で二冠を手にしたのだ。

 苦手だったスポーツにも向き合い、バレエ教室とジムに通い始めた。来日したキー氏に自らのパフォーマンスを見せたところ、「さらなる高みを目指すならダンスが必要」とすすめられたからだ。「バレエ教室では僕以外、全員女性。アウェイ100%だったが、すべての恥を捨てて行った」

 09年には大道芸ワールドカップに出場。同年末にはシルク・ドゥ・ソレイユのオーディションに合格し、シルク・ドゥ・ソレイユ登録アーティストの称号も得た。ヨーヨー世界一で終わらず、世界一におごらず、常により高いステージを目指し、自分を高めてきた。

 「かっこいい自分になりたい。ヒーローになりたい。多くの人に認められたい」。そんな思いが原点にあるという。

いじめられっ子だった自分を、自分で救いたい

 「幼稚園のころ、仮面ライダーのようなヒーローにあこがれた。小学生になると、スポーツができる子がかっこよかったが、それにもなれなかった」

 小さいころは「いじめられっ子だった」と振り返る。「仮面ライダーの世界では、いじめられっこは助けられるが、現実には仮面ライダーはいない。自分がヒーローになり、かわいそうな自分を救いたいという思いがある」

 やっと見つけた「ヨーヨー」という特技。ほかのすべてを犠牲にして打ち込み、勝ち取った世界チャンピオンという称号。その称号が、社会にまったく評価されなかったこと。BLACKさんの胸の奥には、初優勝したあの時の落胆が、残っている。

 「オリンピックで金メダルを取ったスポーツ選手はガラッと生活が変わるのに、ヨーヨーは世界チャンピオンになっても何も変わらない。これからは、ヨーヨーを頑張っている人の努力が評価される環境になってほしい」

 TEDに挑戦したのも、そんな思いからだった。

TEDで「ヨーヨーが見直さるのではないか」

 「TEDに出演できればいよいよ、ヨーヨー見直されるのではないか」

 12年1月。TEDはスピーカの一般募集を初めて実施。1次審査では東京だけで数百件の応募があり、通過した23組からBLACKさんだけが、本番への出場権を得た。

 TEDと名の付くものには、過去に2度出演していた。「TEDx」(テデックス)という名のTEDのフランチャイズイベントは世界各地で展開されており、都内では若年世代が運営する「TEDxYouthDay@Tokyo」や「TEDxTokyo」が定期的に開かれている。

 友人から頼まれ、10年に「TEDxYouthDay@Tokyo」、11年に「TEDxTokyo」に出演。TEDについてほとんど何も知らないまま出演したが、出演後の反響に驚いてTEDについて調べ、その社会的評価の高さを知ったという。

慣れない英語、繰り返し練習 クラウドファンディングも活用

画像 パフォーマンス練習の様子

 本場のTEDの聴衆は、年会費7500ドルを支払って観覧に来る、折り紙つきのVIPばかり。目の肥えた彼らも惹きつけられるよう、パフォーマンスに磨きをかけた。

 演技指導には元シルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマーの力を借り、楽曲制作は、ゲーム「ストリートファイター4」や、アニメ「悪の華」のサントラを手がけた深澤秀行さんにお願いした。プロモーションを兼ね、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で、ヨーヨーや演技指導費、楽曲制作費を募り、72人の支援を得た。


画像 CAMPFIRE活用も

 「君にはパッションがある。パッションというテーマでプレゼンしてほしい」。こんな言葉に後押しされ、「パッション」をテーマにしたプレゼンを組み立てた。「身の上話をするだけなのに……と思ったが、ヨーヨーのために会社を辞めるという判断などは、情熱的な行動だったんだろと思う。自分が何をすごいのかというのは、自分自身、分かってないのかもしれない」。制作した原稿を外国人パフォーマーに読んでもらって録音し、何度も聞いて覚えたという。

 大舞台でも、準備さえ十分なら緊張しないタイプ。TEDは「人生で一番準備した」が、本番の朝は緊張で足が震えたという。本番では無心でスピーチし、入り込んで演技をし、大きなミスなく終え、スタンディングオベーションに包まれたが、本番中の記憶は「すっぽり抜け落ちている」。


画像 Photo by TED Conference
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 人生が変わり始めたことを実感したのは、本番が終わったわずか10分後のことだった。

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