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音楽のデジタル化時代に著作権管理団体はどうなる JASRACがシンポジウム

» 2014年03月25日 14時21分 公開
[本宮学,ITmedia]
photo シンポジウムの様子(ニコニコ生放送より)

 ITの進化は著作権管理のあり方をどう変えるか――日本音楽著作権協会(JASRAC)は3月24日、「著作権集中管理団体に求められる役割とは」をテーマにシンポジウムを開催した。知的財産権に詳しい大学教授や弁護士らが出席し、“デジタル時代”の著作権管理のあり方や、ネット上に増え続けるコンテンツの管理方法などについて議論した。

 パネリストは早稲田大学法学部の上野達弘教授、国士舘大学大学院 総合知的財産法学研究科の上原伸一 客員教授、福井健策弁護士(日本大学芸術学部 客員教授)、JASRACの菅原瑞夫理事長の4人。中央大学法科大学院の安念潤司教授がモデレーターを務めた。

テクノロジーの進化で新規参入の“壁”は壊れるか

 放送局などがJASRAC管理楽曲を使う場合は、前年の放送収益の1.5%を楽曲使用料として支払う代わりに全楽曲を無制限に利用できる「包括利用許諾」契約を結ぶ必要がある。この契約は利便性が高い一方、「音楽著作権管理に新規参入する事業者の妨げになっているのでは」といった批判もあり、独占禁止法違反に当たるとして公正取引委員会が排除措置命令を出した経緯もある(現在上告中)。

photo 上原氏

 とはいえ、放送局が使いたい楽曲を個別に事前申請するのは現実的ではないという。「放送の場合、番組が完成するまでにどの曲がどう使われるかが変わる場合がある。権利者に事前に連絡するのはまず不可能」と菅原理事長は指摘。また「番組ディレクターは番組制作に集中するのが仕事なので、使う楽曲を1つ1つ申請するようになるとは考えにくい。今後も放送業界での包括許諾の必要性は変わらないのでは」と上原氏も同意する。

 一方、楽曲使用料については、技術を活用することで実際に使用した楽曲を完成した番組から把握できれば、各著作権管理団体に対して個別に楽曲使用料を支払える可能性もある。福井氏は「前年の放送収入の1.5%というのは固定料金として、著作権管理団体ごとに使われた楽曲数を把握できれば、その1.5%から例えばJASRACはこれだけ、イーライセンスはこれだけといった割り振りができるのでは」と提案する。

photo 上野氏

 だが、使用楽曲を把握するために使う「フィンガープリント」技術には限界があると上原氏は指摘する。「録音されたレコード音源でも検出率は100%ではないのは確かで、現状では80〜90%くらいと聞く。また、歌詞だけを読み上げたり字幕スーパーで使うケースを拾い上げるのはさらに難しい。全ての楽曲を100%把握するのは将来的にも難しいだろう」

 そこで上原氏は、楽曲利用者から包括料金を徴収することを前提とした上で、著作権管理団体ごとに異なる割合で料金を決める方法を提案する。「例えばJASRACだったら(前年の放送収益の)1.5%、イーライセンスだったら1.2%、JRCだったらいいコンテンツだけあるから1.8%とか。この割合を各社ともJASRACに合わせてしまうと問題があるが、こういう形でやれば独占禁止法上の問題も起こらないはず」

参入規制の緩和で「JASRACフリー」が生まれる一方、市場破壊の危険も

 現在、日本で商業利用できる楽曲の多くはJASRACの管理下にある。だが今後、JASRAC以外の著作権管理団体の楽曲や、著作権管理団体にそもそも権利を委託しない楽曲などが増えていく可能性もあるのだろうか。

photo 菅原理事長

 菅原理事長は「著作権等管理事業法が施行されてから状況が変わってきた。昔は全権利でしか管理団体に委託できなかったが。今は一部の権利だけを委託する“支分権”も選べる。例えば映像の複製権などについては、JASRACに預けずに自己管理する権利者も増えてきている。また、ボーカロイド楽曲などはこれまでJASRACなどに管理を任せないケースが多かったが、例えばカラオケで配信するためにその部分の管理を委託するなど、一部の権利だけを著作権管理団体に預ける動きが生まれている」と話す。

 一方、ネット上のコンテンツが急激に増える中、それら大多数の著作権管理を行うのではなく、JASRACなどが管理する莫大な楽曲のうち“売れそうなもの”だけを選んで取り扱うビジネスモデル(いわゆる「クリームスキミング」)が成り立ってしまう可能性もあるという。この問題について福井氏はこう指摘する。

photo 福井氏

 「デジタル化によって管理コストが下がり、売り上げ規模の少ないコンテンツも利益を出せるようになるのが理想だったが、現状では楽曲の管理コストが下がり切っておらず、10ダウンロードや100ダウンロード程度では儲からないと言われている。そうすると、JASRACなどが扱う莫大な管理コンテンツのうち“売れ線”だけを扱う事業者が出てきてしまう可能性がある」

 「クリームスキミングで売れ線コンテンツの収益性は高まる一方、その他大多数のコンテンツは自らの売り上げで管理コストをまかなえなくなってしまう。そうするとJASRACのような団体は、その管理コストを比較的売り上げの少ない大多数の作品に転嫁しないといけない。つまりコンテンツ全体の管理コストが上がってしまい、大多数のコンテンツが死蔵されやすい状況が生まれてしまうのでは」(福井氏)

 福井氏は「現状では不透明だが、例えば今後JASRACなどに著作権管理を信託しなくても、DRM(デジタル著作権管理)技術などによって著作者に自動で利益が振り込まれる仕組みもあり得るかもしれない。また、そもそも収益を上げる必要がない作品を著作権フリーにしてしまって解決するという道もあるかもしれない」という考えを示した。

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