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新しい知的財産のルールを日本から──「IP2.0研究会」発足、角川会長ら識者が議論・提案

» 2014年07月30日 19時40分 公開
[山崎春奈,ITmedia]

 角川アスキー総合研究所が主催する「IP2.0研究会」が第1回公開研究会を7月29日に都内で開いた。座長であるKADOKAWAの角川歴彦会長を中心に、IP(Intellectual Property:知的財産)の将来について議論・提案していく。

 昨年夏に発足した同研究会は、政府が作成したアクションプラン「知的財産政策ビジョン」を受けて、今後のIP戦略を議論・提案することを目的としている。まだ論点が明確でないもの、今はまだ表面化していないが近い未来に必ず直面する課題など、現時点で政策レベルでは盛り込みにくい問題点を洗い出し、専門家や事業者だけでなく、より多くの人と「IP2.0」の在り方を共有・検討していこうという試みだ。

photo KADOKAWA 角川歴彦会長

 プロジェクト発足にあたって、昨年8月に発表された角川会長名による趣意書では「従来とは質の異なる問題」「新たなパラダイムが求められる」事例として、(1)グローバル化が進む中で、企業活動を国ごとの法律で制限するには限界があるが、国際的な枠組みの策定は可能か、(2)大量のデジタルデータの活用可能性は大きいもののプライバシーを侵害する危険性もあり、これまでの知的財産の保護・活用の体系の中で扱うことは難しい、(3)3Dデータなど、コンテンツだけでなくモノ自体がデータとして複製可能になった時、知的財産としてどう扱っていくか――の3点を挙げている。

 本格的な研究会のスタートに合わせて趣意書をさらに拡張し、23の論点を洗い出した「IP2.0問題群リスト」の暫定版を公開。グローバル化と企業活動、2次利用のルール、クリエイターを守る制度、教育の在り方などに関して問題提起する。今後、公開研究会の中で順次議論していくという。

photo 中村伊知哉教授

 公開研究会で行われたパネルディスカッションのテーマは「グローバル時代の著作権・特許ルール」。慶應義塾大学大学院の中村伊知哉教授は「政府に知的財産戦略本部が設置されて10年以上が経ち、議論は進んでいるが、なお市場全体に閉塞感があるのが現状」と振り返る。

 「これまでの延長ではなく断絶という認識、明らかにステージが変わっている。国家の枠を超えたビジネスが当たり前になり、世界共通のデバイスにリアルタイムにコンテンツが共有される現状にあった新たなIPのルールが必要」(中村教授)

photo ドワンゴ 川上量生会長

 ドワンゴの川上量生会長は「ネット上で知的財産や著作権の侵害があったとして、どの国の法律で裁くかは根本的な問題。国でルールを定めたところで規制できるのは国内企業のみで、結局自国産業の首を絞めることになってしまう。国単位で打てる手が極端に少ないのが問題」と自身の経験を踏まえて問題を話す。

 「最近『ニコニコ生放送』のコードを0から書き直すことを決めたのだが、うちのエンジニアが持ってきたデータが『継ぎ接ぎしてきたコードが複雑になりすぎていて1行追加すると平均3カ所にバグが出る』だった。現状のIPを取り巻く法制度も、これまでの妥協の産物で矛盾の固まり。そろそろ誰かが“フルスクラッチ”する必要がある」(川上会長)

photo 荒井寿光さん

 知財戦略本部で事務局長を務めた荒井寿光さんは、特許に関しては実質アメリカのルールが世界のスタンダードとなりつつあることを引き合いに出し、「IPに関しても世界中が同じような問題に直面しているはずで、誰かがルールを作り始めることが重要。今の時代に則した新たな枠組みを日本が積極的に提案し、世界をリードしていくべき」と主張する。

 角川会長はTPPによる著作権法変化の可能性にも言及し、「必ずしも世界標準のものを採用しなければならない理由はないが、現状の著作権法がベストではないのも明白。明治時代の規定が生きている部分もあり、改めて見直す必要はある」と国際的なルール作成とは別の側面での検討も必要と話した。

 今後もさまざまな視点で公開研究会を開催予定。8月28日に第2回「機械が生み出すクリエイティブ」、9月30日に第3回「企業戦略テクノロジーとIPの相克」、11月27日に「IP2.0シンポジウム」を行うことが決定している。

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