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図書貸出カード、本人の同意なく公表は「プライバシー侵害」 村上春樹さん母校の記事について図書館協会が調査報告

» 2015年12月01日 11時33分 公開
[ITmedia]
画像 図書館協会の調査報告

 作家・村上春樹さんが在学していた県立高校の図書館の本の貸出カードに村上さん直筆の署名が残っていたとして、他の生徒の署名入りのまま写真付きで報じた神戸新聞の記事について、日本図書館協会 図書館の自由委員会はこのほど、経緯などを調査した結果を公表した。「図書館利用者の読書記録を本人の同意なしに公表することは、利用者のプライバシーの侵害」と指摘している。

 問題になった記事は、10月5日付けの神戸新聞夕刊とオンライン版に掲載された。村上さんが在学していた県立神戸高校の本から村上さんの貸出記録が出てきたことを、「村上春樹」と記名された貸出カードの写真とともに報じた。写真は同じカードに残る他の生徒の名前もはっきりと分かる形になっており、掲載に疑問の声がネットで相次いだため、オンライン版では貸出カードの写真掲載を中止した。

 神戸新聞は記事について、「村上氏が若い時にどういう本を読んでいたかをノーベル文学賞発表前に伝えることは公益性が高い」「貸出カードは、村上氏が50年前にフランス文学の本を読んでいたことのわかる直筆の資料として研究に資する可能性があると考え、ありのまま掲載すべき」と考えて報道したと説明。図書カードから「他の人の名前を隠さなかったのは配慮を欠いた」と話したという。

 神戸高校は「旧蔵書を県立図書館に寄贈した後、不要として返却された本の中に村上氏のカードが残っているのを旧職員が発見し、貴重な資料だと神戸新聞社に情報提供した」と経緯を説明。「学校としては、寄贈する際に貸出カードを抜いておくべきだったと反省している」「旧職員といえども外部の人であって、見せてしまったことを反省している」とし、「今後このようなことが起きないよう情報管理の徹底をさらに図っていく」と述べたという。

 同委員会は「何を読んだか、何に興味があるかは『内面の自由』として尊重されることが民主主義の基本原則」と指摘。「利用者の読書事実は、図書館が職務上知りえた秘密であり、適切に管理しなければならない。個人情報保護法制上からも、本人同意なしの第三者提供は認められない」とし、「神戸高校が旧蔵書を廃棄する際、利用者の読書事実を示す図書カードを適切に処分すべきであったと考える」としている。

 さらに「図書館利用者の読書記録を本人の同意なしに公表することは、利用者のプライバシーの侵害」と指摘。「神戸新聞社が図書カードを適切に入手していたとしても、カード上に記載された本人の同意を得ずに報道することは是認できない」「電子版に掲載された画像は掲載を取りやめた後もネット上に残されている。ネット情報のこのような特性を理解し、写真の掲載にはより慎重であってほしいと考える」と述べている。

 その上で、学校図書館や新聞社に対して、「図書館の自由の理念への理解を深めていただきたい」と要望している。

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