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「Fukaseなら俺の隣で歌ってるよ」 セカオワボカロを使ってわかったこと(2/3 ページ)

» 2016年02月18日 12時21分 公開
[松尾公也ITmedia]

開発に3年かかった理由

 VOCALOID Fukaseの開発を担当したのはヤマハ吉田雅史さん。Electronica-Tune Job Pluginは橘誠さんが開発。そして、VOCALOIDプロジェクトでおなじみ木村義一さんに話を聞いた。

 VOCALOID Fukaseプロジェクトの発端は、SEKAI NO OWARIのマネジメント会社からヤマハに「日本語と英語のVOCALOIDをやりたい」という提案があった3年ほど前。

 完成までに時間がかかったのは、バンドが売れっ子であるためレコーディングのためのまとまった時間がとれなかったことと、通常の3倍手間がかかるという英語データベースも含まれるため。レコーディングは6、7回に分けて行われたという。

 英語VOCALOIDについては、米国のネイティブシンガーを使って完成させたCYBER DIVAと一時期並行して開発が進められていたこともあり、「そこで得られた知見は投入している」と吉田さん。このため、他のVOCALOIDと比較しても、英語歌唱のバランスは優秀だ。

 Fukaseさんはレコーディングを重ねてだんだんと出来上がってくると「これオレじゃん」という感想が増えてきたと吉田さん。

 VOCALOID Fukaseには「Normal」「Soft」「English」の3つのライブラリがある。最初の2つは日本語だ。通常モードとソフトモード、2つを選んだ理由について聞いた。

 Normalは「Fukaseの発音、歌声で作る」というコンセプト。それに加えて息成分が豊富なブレッシーでささやくものがほしいということでSoftを追加することに決まった。ラウドなライブラリについても案が出たが、NormalでもG3以上の音程になると力強い、パワーのある音が出るので十分ではないかとの判断だった。

あのロボボイスをお手軽に

 あの特徴あるエフェクトがかからないFukaseボーカルはありえないだろう。そのくらい派手なボーカル用エフェクトがAuto-Tune。古くはシェールやダフト・パンク、日本ではPerfume、きゃりーぱみゅぱみゅなど幅広く使われている。

 これは、VOCALOIDライブラリよりも高価なソフトで、DAW(音楽制作ソフト)のオプションとしてさらに購入する必要がある。使い方もボタン一発でOKみたいなものではない。

 FukaseからVOCALOIDに入る、セカオワのファンの人たちが使って、手軽に「Fukaseのあの声」にできるようでないといけない。そう考えた結果が「Electronica-Tune」というJob Pluginだ。

 橘さんによれば、このプラグインはVOCALOID4から実装されたピッチスナップモードという、音程の遷移を機械的にする機能をうまく活用しているのだという。普通は1つの音から次の音へは、人間のようになめらかに移るのだが、そこをわざと階段上にするものだ。

 よりAuto-Tuneっぽくするためには、新しい音に移行する最中に別の音程を経由してピッと上がっていく必要がある。それを、プラグインで可能にしている。

 「(小林幸子さんのこぶし回しを学習させた)Sachikoのプラグインのように複雑なことはやってない」と橘さんは言うが、それでもオリジナルのプログラムが含まれており、それによってパート全体の音程からスケールを判断し、経過音を決めているのだという。

photo Electronica-Tune Job Pluginには独自プログラムも含まれる

 「Fukaseの生声ってこんななんだー」「Fukaseがささやいて歌ってる……」「このケロケロ、もろFukaseさんじゃん」みたいなことをファンの子たちが簡単にできることをヤマハは望んでいるのだ。

 セカオワファンを取り込むために、別の工夫もしている。ゼロから始める人むけに、初めての試みである小冊子で人気曲「スターライトパレード」の打ち込みを詳細解説(48ページある)、VOCALOID Editor、必須DAWであるCubase AIがバンドルされたスターターパック、チュートリアル動画なども用意した。

 セカオワファンの子たちはあまりPCは使わなくなっているのではないか。そのためにはiPhoneやiPadで動くMobile VOCALOID EditorでFukaseを販売したほうがよいのではないだろうかと問いかけたところ、予定はたっていないが、「出したい」という考えはあるという。

 iPhoneをいじりながら若い子がFukaseをケロケロさせてるというボカロの未来はけっこうよさげだ。

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