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チケット1枚“数十万円”のケースも……高額転売を撲滅せよ 「顔認証」はライブイベントを変えるか(1/3 ページ)

» 2016年06月09日 14時00分 公開
[山崎春奈ITmedia]

 CDが売れないと言われて久しい音楽業界。パッケージビジネスは低迷しているが、コンサートやフェスなどのライブイベント市場は伸び続けている。2015年の総売り上げは3187億円と10年前の約3倍だ(コンサートプロモーターズ協会調べ)。

 スマートフォンの普及で個人間のネットを通じた売買が“当たり前”になりつつある中、社会問題化しているのがチケットの高額転売。人気アイドルのコンサートやアニメ関連イベントなど、時には定価の数十倍にもなる数十万円の高値で取り引きされることもある。

 本人確認を徹底して転売を防ぎつつ、スピーディーな入場を実現するには――導入事例が増えつつあるのが、あらかじめデータベースに登録した顔写真データと来場者の顔を照合する「顔認証」システムだ。従来から行われている身分証確認などと比べて偽造が難しく、入場にかかる時間も大きく短縮できると期待されている。

photo 導入が増える「顔認証」のメリットは

 顔認証は、横行する高額転売を撲滅するライブイベントの救世主となるのか。来場者、運営者の双方にどんなメリットがあるか。転売問題に対して興行側は今どのように考えているのか――多くのアーティストのイベントで顔認証システムを手掛けているテイパーズの冨澤孝明常務に聞いた。

カメラの前に立った瞬間 1秒以下で発券

 まずは同社が開発・提供している顔認証システムを実際に体験してみた。カメラを搭載したタブレットの前に立ち、ファンクラブ会員証となっているICカードや、チケット表面のQRコードを専用リーダーにかざすだけ。一瞬で顔認証は終了し、1秒も待たずに座席券が発券される。

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 “顔パス”入場と言われるだけあって速い。体感的には「えっ、もう終わり?」となるスピードだった。通常、チケット提示・もぎりにはおよそ6〜10秒かかると言われており、身分証明書などで本人確認を行う場合はさらに時間がかかる。その両方がこのスピードでまとめて終わるとなると、かなりの行列でも待ち時間は短く済みそうだ。

 顔認証技術は、空港のセキュリティチェックなどでも使われているNECの「NeoFace」を採用。数十万人分の顔写真データから1秒未満で照合する速さと、眼鏡の有無や髪型、化粧などで多少の変化があっても識別できる正確さが特徴という。

photo 来場者と登録写真が照合されない場合はアラートが出る
photo 入場ゲートで初めて座席が分かる「当日発券システム」
photo 実際の会場の様子

 2014年夏の「ももいろクローバーZ」日産スタジアム公演で初めて導入。2日間でそれぞれ7万人程度の来場者のうち、ファンクラブ会員の4万人程度が顔認証で入場した。その後も、B'z、Mr.Children、福山雅治さんなど、15年12月までに約50公演、延べ30万人以上の規模で顔認証システムを活用している。

 来場者は事前にPCやスマートフォンから顔写真を登録。セキュリティ保護されたクラウドサーバ上に保管し、顔の特徴を分析して数値化する。当日は顔写真そのものではなく、数値情報と来場者の顔情報を照合する仕組みだ。

 「顔認証は、本人確認を厳重にして転売の余地をなくし、来場者にもストレスをかけないソリューション。『わざわざ身分証チェックされるの、面倒だけど仕方ないよね』『疑われてるみたいで窮屈だよね』をなくし、始まる前から気持ちよく楽しんでもらえる環境を作りたい」(冨澤さん)

 「顔認証」という言葉そのものが話題になったが、同社は「当日発券システム」のオプションとして顔認証サービスを提供している。冨澤さんによると、転売対策とセキュリティ強化、来場者の利便性向上を目指して今の形になるまでにはさまざまな試行錯誤があったという。

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