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チケット1枚“数十万円”のケースも……高額転売を撲滅せよ 「顔認証」はライブイベントを変えるか(2/3 ページ)

» 2016年06月09日 14時00分 公開
[山崎春奈ITmedia]

「良席」「神席」を“売らせない”ために

 テイパーズは、アーティストのファンクラブ運営やチケット業務など、エンターテインメントの裏側を全面的に支える「音楽業界の裏方」(冨澤さん)。多くのアーティストの活動を支える中で、ネットの発達とともに大きな問題として認識し始めたのが転売の横行だ。昔から「ダフ屋」としてある程度の規模で転売市場はあったが、オークションや2次流通サイトの台頭で、一般個人がお小遣い稼ぎの感覚で正規購入したチケットを転売するケースが目立つようになってきたという。

photo アニメ「ラブライブ!」の声優ユニット「μ's」の解散コンサートのアリーナ席はオークションで1枚43万円で落札され話題になった
photo 2次流通サイトに出品されたあるアイドルの東京ドーム公演のチケット。座席位置によって販売価格に差がついている

 チケットが完売していれば興行側の収入は変わらないのでは――という疑問に対し、富澤さんは「ライブやコンサートは既存のファンだけでなく、新たなファンを作るチャンスでもある。価格が釣り上がる心理的な抵抗や不公平感だけでなく、ビジネスとして見ても長期的には不利益につながる」と危機感をあらわにする。

 「主催者は若いファンや遠方のファンにも来てもらいやすいよう、少しでも手に取りやすい価格で販売しようと努力しているのに、お金がある人しか見られないものになってしまったらその思いが水の泡。本当に見たい人にチケットが届く仕組みをなんとかして作りたいという意識は今も昔も変わらない」(冨澤さん)

 転売市場で、ステージや花道に近く「良席」「神席」と呼ばれる座席チケットが正規価格よりも高く売買されるのは、その席に価値があるからだ。座席が当日まで分からなければオークションで売買が成立しにくいはず――そんな発想から生まれたのが、入場時に初めて席が分かる「当日発券」の仕組みだ。

photo 当日発券チケットにはQRコードと管理番号のみを印字

 当日発券用のチケットには管理番号やQRコードだけを印字するため、チケット単体で優劣が付かず、オークションでも価格が比較的高騰しにくい。ICカードや電子チケットと併用すれば、チケットレスに近い入場も可能になる。

 当日発券は転売防止や利便性向上に役立つだけでなく、コンサート運営側にとってのメリットも大きいという。ライブやコンサートでは、会場の状況などによって開演直前にステージや座席の構成が変わり、ある座席が予期せず「見切れ席」(ステージや出演者が見えにくい席)になってしまうケースもある。配券するのが当日ならば、座席図面がない状態でも人数を基準にしてチケットを販売でき、直前に変更があっても柔軟に対応できる。

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