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人工知能が洋服を選んでくれる ユーザー7万人突破のファッションAIアプリ「SENSY」が目指すもの“未来IT”で世界を変える すごい国産スタートアップ(2/3 ページ)

» 2016年06月10日 07時00分 公開
[片渕陽平ITmedia]
photo カラフル・ボードの渡辺祐樹CEO

 渡辺CEOは、大学在学時から人工知能を研究していたが、基礎的な研究が中心で「人工知能が社会をどう変えるのか」を具体的にイメージできず、「研究が社会に結び付かない点に“違和感”を感じていた」と振り返る。

 「このままでよいのか?」と思い悩んだ末、大学院への進学をやめてコンサルティング企業への就職を決意。取引先のアパレル業界で目にしたのが、「洋服が作られるだけ作られて、誰にも着られず、大量に捨てられていく」光景だったという。

 「例えば、楽天市場で『黒いジャケット』を検索すると90万件以上ヒットする。情報が多すぎると、かえって自分がほしい物と出合えなくなり、無駄が生まれる。人工知能でそんな無駄を解消したかった」(渡辺代表)

制約は「学習させる枚数」

 SENSYの人工知能は、洋服の種類をピクセル単位の画像データで判別している。「水玉」「チェック」などの大きな模様ではなく、どのピクセルにどんな色を配置すると、ユーザーが好ましい反応をするか――をレコメンドの判断基準にしているという。

 「SENSYは、人工知能の分野で研究が進んでいる“主流”とは違う」――渡辺CEOはこう話す。

 現代の人工知能は、あらかじめ膨大なデータを読み込ませ、特定の画像を分類させる研究が一般的だ。例えば、カレーライスの画像を1枚見せ、「何という料理なのか」を答えるには、「事前にカレーライスの画像を1000万枚以上は学習させておく」(渡辺CEO)など、ある程度の“力技”が必要になるという。

 今年3月、世界トップレベル棋士に勝利して話題になった米Googleの囲碁専用人工知能「AlphaGo」(アルファ碁)もその一例だ。AlphaGoは、プロ棋士の棋譜画像から数千もの打ち手を学習。500回以上の対戦を繰り返し、データを蓄積してきたと言われている。

photo 米Googleの人工知能「AlphaGo」(アルファ碁)。今年3月、プロ棋士・李世ドル九段を破って話題になった。

 だが、SENSYの場合は、学習させるデータ数に大きな制約がある。人工知能に好みを覚えさせるためだけに、ユーザー1人1人が数百〜数千万枚の画像を選別するのは非現実的だからだ。限られた枚数の画像から、その人の好みをいかに早く抽出できるか――「アルゴリズムのコアに関わるので、具体的な技術は話せないが、1年半以上、突き詰めて完成した部分だ」と渡辺CEOは自信をみせる。

 SENSYをリリースしてから、利用者が「いいね」か「いまいち」か選り分けたサンプルデータも、人工知能の精度向上につなげている。「ユーザーが増えるほど、アルゴリズムの精度が上がる。千葉大、慶応義塾大とも共同で技術開発を続けていて、年内には新しい特許を取得する予定だ」。

「人工知能は、ヒトの仕事を奪わない」

 SENSYの活躍の場は、ユーザーの手元のスマートフォンにとどまらない。昨年9月には三越伊勢丹ホールディングスと協業し、百貨店店頭での接客支援サービスを始めている。

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