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コンピュータで音楽を作る時代はこうして始まった立ちどまるよふりむくよ(1/2 ページ)

» 2016年06月24日 14時51分 公開
[松尾公也ITmedia]

 連載第3回は音楽ネタ。1回2回も最後は自分の音楽で締めてるじゃないかというご指摘もあるので、今回は正面切って音楽制作をテーマにする。過去を振り返って現在と対比させるこの連載、タイムマシンを1982年にセット!

 Omoidori(本日、6月24日発売なのだ)で銀塩写真の紙焼きをスキャンしているときに、昔の自分と妻(当時は学生だった)のライブ演奏写真が出てきた。3年前に整理したときにも見たはずなのだが、そのときには画像が鮮明じゃなかったか、気持ちが混乱していたせいか、気づかなかったことがある。

 1982年11月下旬、母校の学園祭「外語祭」で、8ビットコンピュータとシーケンサーにアナログシンセサイザー2台を接続してライブをしている様子が写し出されていたのだ。

photo まさにシーケンサーをスタートさせようという瞬間が切り取られている

 別の角度の写真もある。シーケンサーの制御・記録に使ったコンピュータ、シャープMZ-80K2Eの画面にはメニューが表示されているし、その右には音源内蔵デジタルシーケンサーAMDEK CMU-800の姿がある。そのさらに右上には、CMU-800に制御されているアナログシンセサイザーMS-20が積まれている。一番下にある茶色いのはMS-20のハードケースだ。この上にアンプを積んで、さらにMS-20を載せている。

photo MZ-80K2Eの画面にメニューが表示されている

画期的だったデジタルシーケンサー登場

 音楽の自動演奏といえば、昔からプレイヤーピアノ、オルゴールなどがあったわけだが、自分の好きなメロディーをいつでも引き出せるのは、シンセサイザーと連動したシーケンサーが登場してから。1970年代だと、Modular Moog、ローランドのSystem 700、System 100Mのシーケンサーモジュール、そしてコルグMS-10/20/50で使えるSQ-10という独立したシーケンサーがあった。

 しかし、これらのシーケンサーはシンセサイザーをコントロールする電圧をノブの位置で設定する、アナログ方式。せいぜい32ステップ(32音)くらいで、しかも曲を変えると設定は一からやり直し。戻すこともできない。記憶ができないのだ。

 そんな中、画期的な製品が1977年に登場した。ローランドのMC-8だ。コンピュータを搭載しており、5400音ものデータをストックできる。価格は120万円。

 このモンスターマシンを最初に使ったのが、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)のファーストアルバムと、坂本龍一「千のナイフ」。プログラミングは松武秀樹さんだ。

YMOはやりたしシーケンサーはなし

 1978年に始まったぼくの大学時代はちょうどニューウェーブ、テクノ、パンクが知られ始めた頃で、その年にコルグの激安アナログシンセサイザー(当時はデジタルがなかったので、たんにシンセサイザーと呼んでいた)であったMS-10を購入。大学で最初にシンセを所有したということで、バンド活動を始める。

 EX-POPというその学生バンドではXTC、DEVO、そして当時はあまり知られていなかったYMOのカバーなんかをやっていた。あるときは「ライディーン」をライブでプレイしたが、BOSSのポータブルリズムマシン「DR-55」のクリックをドラマー(後のVOW WOWのボーカルである)がヘッドフォンで聞きながら叩き、同じくDR-55のトリガーからシンセの単音のピコピコを鳴らすという、当時としてはわりと高度なことをやっていたのだが、キーボードのメロディーはすべて手弾きだった。

 4年生になった1981年、MC-4が発売される。大幅に値下がりしたものの、まだ学生に買える値段ではない。この年、新入生のカノジョができた自分は、寂しいだろうからもう1年学校に残るねと宣言し、「マイコンを買って勉強しよう。そうすれば就職できるはず」と謎の決意をするのだった。

クリーンコンピュータを手に入れた

 そのカノジョ(もちろん後の妻である)といっしょに行った、五反田のTOC(東京流通センター)で開かれた大学生協のマイコン展示即売会には、高価なApple II、当時ですら古臭い感じがしたTandy TRS-80、どでかいコモドールCBM、さらに大きい沖電気工業if-800、そして最新のNEC PC-8801などが並んでいた。

 選択肢はなかった。シャープのMZ-80K2E。ディスプレイやカセットデータレコーダー、キーボードなどが一体化していて14万8000円という手頃なお値段。カセットテープを入れ替えればBASIC以外のプログラミング言語にも入れ替えができる「クリーンコンピュータ」というのも気にいった。

photo MZ-80K2Eの鮮明なパンフレットはシャープのガラパゴスストアで入手可能

 電源を入れればすぐにBASICが使えるPC-8001/8801/6001などとは違い、MZシリーズはカセットテープでロードしないとBASICも使えない。しかし、そこに別の言語やゲームを入れれば、メモリをフルに使えるというメリットがあった。

 そういうわけで、マイコン(今で言うところパーソナルコンピュータ)が手に入った。10インチCRTディスプレイということは、9.7インチのiPadとほぼ同じってことか。

 Oh! MZ、マイコン、RAM、i/O、アスキーなどのコンピュータ雑誌を買ってはゲームプログラムを入力していたその頃、我が下宿はゲーセンと化していた。入れ替わり立ち替わり友人たちがやってきて、窓から勝手に家に侵入して、粗いグラフィックスでインベーダーゲームやスタートレックゲームを遊んだりしていた。

 そんなときに見つけたのがアムデックという会社のCMU-800というコンピュータ周辺機器。アムデックというのはローランドの子会社で、現在はローランド ディー.ジー.という、立体切削機や3Dプロッタなどを販売する会社となっているが、当時はエフェクターの組み立てキットなどを売っていた。

 このCMU-800というのが、実はMC-8/MC-4直系の製品なのだ。音符の入力と保存はコンピュータ側で行い、シンセサイザーとのインタフェースはCMU-800側に持つ。音源もピアノ、メロディー、ベース、ドラムを一通り備えており、シンセサイザーを接続しなくても曲の演奏ができる。それでいて、8台のシンセサイザーをコントロールできる。

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