そして、セカイカメラは消え、同種のARアプリも壊滅してしまったのに、なぜPokemon GOは大ヒットしたのか、という疑問。理由はいくつもある。
1999年に発売されたポケモンスナップはある意味、Pokemon GOのプロトタイプとも言えるものだった。それはバーチャル世界でポケモンの写真を撮るというものだったが、それを実世界で撮影できるようにしたのがPokemon GOのAR機能。
これは「Pokemon GOにはAR機能はいらなかったんじゃないの?」という問いへの答えになるのではないだろうか。
位置ゲーとしての性質はそもそも初代ポケモンからあったわけで、マサラタウンに始まり、特定の場所にしかいないポケモンをゲットして、ジムで他のトレーナーと渡り合って、というPokemon GOの要素はここですべて入っている。ある意味、元から位置ゲーだったのだ。
そして1998年発売のポケットピカチュウ。歩数計をゲームの報酬に使えるというよくできたウェアラブルデバイス。歩いた距離に応じて卵を孵化させられる、Pokemon GOの機能を思わせるではないか。
このように、ポケモン側には位置ゲーム、ARゲーム、健康促進としての要素は十分にあって、その成果は実証済み。毎日投稿するためのインセンティブとしては、ポケモン図鑑を完成させるという目的は万人に受け入れられるものだし、いずれポケモンの交換機能が実装されれば、ますます離れられなくなる。
POI(Point of Interest)の新設と管理については、Ingressエージェントが次々に申請し、敷設していったものがスクリーニングされて現在のポケモンジム、ポケストップになっている。位置情報はGoogle Mapベースなのだが、それはそもそもNianticのジョン・ハンケCEO自身が率いて構築していたものだ。地理情報をレイヤー化するというのも、ハンケCEOが作り上げたGoogle Earthの大きな特徴だった。
位置ゲーとして、これ以上のバックグラウンドとインフラは見込めないだろう。
そして世代の問題。
初代ポケモン世代はいま、30代に近づいている。筆者の息子たちもこのジェネレーション・ポケモンに属している。つまり、初代ポケモン親世代である。
その初代ポケモン世代が世の中を牽引するようになってきて、その下の世代もポケモンは広く浸透している。このIP資産と、長く敷設してきた位置ゲー、AR/VRの「タネ」は、これまで挙げた成功の要素として何よりも大きいだろう。
ポケモンがセカイカメラのゲームプラットフォームで動く世界線はありえたのか?
当時ではいろんな意味で無理だったろう、というのが正直なところだ。その判断をするには、スマートフォン、ソシャゲというビッグウェーブに任天堂が飲み込まれる必然があったはずだ。
セカイカメラのゲーム戦略から6年。その間にネットワークは3GからLTEへ。iPhoneのキャリアはソフトバンク1社から、MVNOを含めほぼ全社へ。OSは通知機能を実装して、若者のiPhoneシェアは過半数。ガラケーは駆逐された。ソシャゲでの課金システムに多くの人は躊躇しなくなっている。
このタイミングでGoogleから独立し動きやすくなったNianticと組めたというのは、最高の組み合わせといっていい。
そういえば、セカイカメラを実装するために必要だったカメラAPIへのアクセスも当初、Appleは禁じていたのだった。セカイカメラが頼りにしていたクウジットの高精度な室内測位システムPlaceEngineも、Appleからリジェクトに遭っていた。
当時は大変だったのだなと、こんな文章を書きながら思い出している。
そんなこんなでぼくらはいま、ポケモンといっしょに暮らすことができているのだ。
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