――「わたしは真悟」に登場するコンピュータは、当初は8ビットで、文字入力を受け付けるだけでしたが、物語の中盤以降では、ほかのコンピュータとつながり、ネットワークや人工衛星にまでつながっていきます。まるで現代のネット社会やIoT(Internet of Things)を予言したような内容ですが、どう発想されたのでしょうか?
発想はないです。思いつきだけで描いているので。漫画ならではの発想だと思うんです。
漫画の中の発想は、現実の発想とそんなに変わりはなくて、話のなかでこうありたいと描けば、そのうち現実にも同じことが起きるんですね。今住んでいる世界は、こうあればいいと思う願望が現実になっているだけなので。どの時代もそうだと僕は思う。「遠くにあるものが見えたらいいな」と思っているうちにテレビになったりするわけで。漫画で描いているあほらしいことや、そうあればいいなと思って描いていることって、現実に起きるんですね。
――当時、コンピュータの専門家に取材したそうですが、取材でコンピュータの進化について教えてもらったことは?
全然。雑誌で科学者のインタビューもしたんですが、未来について聞いたら「科学者はそういうことは言えません」とムッとされて。科学は現実であり得ることしか言えない、未来を憶測できないと言うんですが、僕はそれはちょっと不満で。科学だって何かきっかけがあって科学に進化するはずで。
――真悟がネットワークや人工衛星とつながって知識を得ていくさまは、今でいうクラウドコンピューティングのようです。
全然知らなかったです。当時は漫画の流れとして描いているだけで。
――「わたしは真悟」では、悟が真悟にさまざまな言葉を覚えさせていきますが、真悟は言葉をどんどん忘れていき、最後に「ア」と「イ」だけが残ります。人工知能、「AI」を予言したかのようです。
ただの偶然です。作品の中に「最初に言葉ありき」と書いたと思うんですが、言葉は決まった文字数だけでできている。真悟は言葉によって自分を進化させ、言葉1つ1つをエネルギーに換えていっていろんなものを助け、自分は壊れていきます。そして最後に残ったのが「ア」と「イ」だった。
当時は、「愛」の「ア」と「イ」が残ったと描いていた。でもこれから先は、違うかもしれない。いままで「アイ」といえば悟と真鈴の話だったが、「A」と「I」なら、AI、すなわち、真悟そのものについて言っていることにつながると思う。
アルファベット何文字かの中に世界のすべてが入っているという言い方をしてもいいと思う。ノーベル賞級の発見も、言葉で説明できたとしたら、何文字かの組み合わせだけでできていることだから。世の中のすべてが数文字でできているとすると、最後に残したいものはたった1つかもしれない。“基”というのはすごくシンプルな、たったこれだけ、というぐらいのところから出発していると思う。
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