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日本の漫画をお金に “トリッキーな戦略”で海外進出を狙うベンチャー企業の自信

» 2016年09月26日 13時42分 公開
[太田智美ITmedia]

 「知的財産マネジメント」――その言葉を聞いて、筆者はなんとなく一筋縄ではいかないめんどくさそうなイメージを持っていた。今、それを世界的ビジネスにしようとしている企業がある。東京都品川区にある「ダブルエル」というベンチャー企業(2014年6月設立)だ。

 同社は『まじかる☆タルるートくん』などの作品で知られる江川達也さんや『銀河鉄道999』の松本零士さんなど、400人を超えるマンガ家と直接つながりを持ち、知的財産マネジメントをビジネスにしている。7月にはディー・エヌ・エー(DeNA)と資本業務提携を結んで話題になった。

 その代表取締役を務めるのは、保手濱彰人さん。保手濱さんはなぜこの世界に足を踏み入れたのか、そしてどのようにビジネスを回しているのか。


ダブルエル ライブドア堀江貴文元代表取締役社長の「かばん持ち」を行った人として、テレビ東京「ガイアの夜明け」に登場した経験も持つ保手濱彰人さん。保手濱さんは「世界一になりたい」と、繰り返す。保手濱さんの言う“世界一”とは、ワンピースの「海賊王に、俺はなる!」というノリに近い。「『海賊王に、俺はなる!』といっていたルフィーが『海賊王ってなんだ?』と聞かれたときに『この海で一番自由なやつが海賊王だ』と言っている。それにすごく共感している」と話す

「タルるートくん」を“今風”にリブート

 ダブルエルの事業をざっくり言うとこうだ。まず挙げられるのは、著作権者と企業の仲介ビジネス。ダブルエルは作品の著作権を保有している作家と直接取り引きがあるため、出版社や製作委員会などを通さず交渉でき、それを企業プロモーションにつなげる事業を行っている。

 分かりやすいものでいうと、例えば企業と「北斗の拳 イチゴ味」のコラボ企画GTOとスマホアプリのコラボ企画などは、作家と広告主の企業をダブルエルが仲介して実現したものだという。

 それとは別に、作家とのネットワークを使って「リブート事業」「マンガライズ事業」といった事業も手掛けている。リブート事業は過去のヒット作品をリメイクして再び盛り上げる事業で、日本の漫画作品を海外向けにローカライズしたり、キャラクターを今風にアレンジしたりして、過去の名作が再び日の目を浴びるようにする。マンガライズ事業は、海外の小説、ドラマ、漫画といったヒット作品の原作の翻案権などをダブルエルが仲介し、日本の著名漫画家に提供、新たに生まれた作品をメイドインジャパンの漫画として売り出すというものだ。

 リブート事業の例を挙げると、『まじかる☆タルるートくん』をVR作品として復活させるプロジェクトや、リメイクする作家を募集した「タルるートくんNEO作戦」など。


ダブルエル

日本のコンテンツは「グローバルビジネスとして成り立っていない」

 彼が今力を入れているのは、東南アジア、中東、南米地域での活動だ。「グローバルビジネスとして全く成り立っていない日本のコンテンツを何とかしたい」――保手濱さんは言う。

 「例えば、スター・ウォーズの興行収入は数百億円を超えている。しかし、同じように世界中で見られていて認知度もあるドラゴンボールやONE PIECEの収入は、スター・ウォーズを超えていない。認知度や面白さではスター・ウォーズやディズニー作品を超えている部分もあるのに、ビジネスとしては圧倒的に負けている。この状態が大問題だと考えている」(保手濱さん)

 保手濱さんの分析はこうだ。「日本のコンテンツがお金に変わらないのは、日本の市場規模が影響している。例えば韓国の場合、国土が小さく人口も日本の半分。そのため、初めから世界に向けたコンテンツ作りをしなければビジネスとして成り立たない。それに対して、日本は国内向けビジネスだけである程度成り立ってしまう。アジア圏だけを見ても、韓国のコンテンツが多く流通しているのはそういった背景があるからだ。結果として、日本のコンテンツは海賊版が多く出回り、世界的なビジネスになれない」。

 これらの背景は、作品づくりにも大きく影響しているという。「コンテンツには“世界で勝てるフォーマット”がある。例えば、3DCG映画は世界で勝てるフォーマットの1つ。日本の2次元アニメーションだけではだめなんですよ。あのような映像作品にお金を払う文化が世界にはなく、他のマネタイズの仕組みと組み合わせる必要がある。映像系コンテンツの収益源は、今のところ映画。だからそれに合わせたコンテンツ作りも必要で、日本原作のアニメが唯一そういったフォーマットを使って世界で通用したのがドラえもんの3DCG映画」。


ダブルエル

 この葛藤から、彼のビジネスがスタートした。保手濱さんの主な営業先は海外。例えばドバイではVRなどの技術を取り入れたイベントが多く開催されており、保手濱さんはそれを日本のコンテンツと合わせて新しい市場を生み出そうとしているという。営業の相手は、日本のコンテンツに興味がある海外の王族や財閥だそうだ。

 「財閥を“1本釣り”できれば何十億円というビジネスになるはず。最近では海外への出張が月に2回ほど。日本でビジネスパートナーを探すより、海外に行ってしまった方が話が早い」(保手濱さん)


少しトリッキーな営業スタイル

 海外での営業は、日本での様子と少し異なる。ダブルエルの海外事業を手伝ったパートナー企業のある女性は、少しトリッキーな方法を使って営業活動を行ったという。

 彼女が取った方法とは、和服を着て、淑女を装い、空港に止まったVIP用リムジンタクシーを捕まえて「これくらいのお金を払うから、今日1日私の専属運転手になってくれない?」と言う――そんな方法だったそうだ。

 ドバイのリムジンタクシー運転手といえば、政府の人をはじめとするVIP層を乗せている。その運転手に1日専属運転手になってもらい、VIP層が普段よく出入りする場所や大企業のオフィスに入り込むのだという。当然、ビルのエントランスでSPやガードマンに止められアポの有無を聞かれるが、後ろの席から“VIPっぽい和服のレディー”が顔をのぞかせ「ここの社長と会いたいから通してくれる?」と言えば「社長の友だちかな?」とそのまま通されることも珍しくないのだそうだ。

 こうして社内に入り込み、社長に事業のことを話すと興味を持ってくれることがあるという。「わざわざ海外に出向いて自分の言葉でプレゼンテーションする日本人はそういない。だから相手は興味を持ってくれるし、そこから話がつながっていく」(保手濱さん)。


 ダブルエルのビジネスは「“漫画家連合”を作っているようなもの」だという。「われわれには、定量化しにくい、目に見えないナレッジデータベースみたいなものがある。誰と話せば良いか、どのような企画なら話が進むか、何をしてはいけないか、など。このビジネスは、長い時間をかけて信頼関係を築いてきた証。だから、同じようなビジネスを他の人がやろうとしてもすぐにできるものではない」――保手濱さんは自信満々にそう語る。

太田智美

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