トイレの便器に取り付けたセンサーが尿を検知。成分を分析して、糖尿病や痛風につながる異常を知らせてくれる――2014年創業のスタートアップ・サイマックスが開発したIoT(Internet of Things)活用サービスがじわりと注目を集めている。
同社は昨年11月、国内最大規模の医療カンファレンス「Health 2.0 Asia-Japan」で、ヘルスケア関連のスタートアップがビジネスプランを競い合うイベントで優勝。それ以来、医療機関や製薬会社などから問い合わせが相次いでいるという。
現在は双日と共同で実証実験を行い、双日社員の健康チェックに生かしているという。サービス開発の背景と狙いをサイマックスの鶴岡マリアCEOに聞いた。
同社のサービスは、尿中のグルコース、タンパク質などの成分データを収集し、クラウド上で管理・分析。基準値やその人の過去のデータと比べるなどして、異常がないかをユーザーのスマートフォンに通知する。目立った自覚症状が出にくい初期段階で、異常をいち早く検知し、ユーザーが気付くきっかけを作るのが狙いだ。
「体が痛くないからといって、異常がないわけではない」――鶴岡CEOはそう話す。「ほとんどの人は自覚症状が出ないと病院に行こうとしないが、その頃には症状が悪化していて、取り返しがつかなくなっている場合がある」。同社は医療機関ではないため、医師に代わって「健康診断」をすることはできない。だが、体内の状態を可視化し、ユーザーが重い腰を上げて病院に出向くきっかけを作ることはできるという。
「例えば、体重計にのって500グラム増えていたら、少し落ち込んで『やせよう!』と思う人がいるはず。それと同じように、体内の状態を可視化できれば、自分の行動を変えるきっかけになり、通院や早期発見につながる」(鶴岡CEO)
しかし、なぜ「尿」に注目したのか――これには同社の事業の歴史が関わっている。
同社は創業当初、血液からガンの有無を検査するデバイスを開発していた。細い針を指に刺し、血液を採取・分析するものだったが、「継続して使ってくれる人がなかなかいなかった」(鶴岡CEO)という。「薬を飲むことさえ忘れてしまうような人が、毎日わざわざ針を刺そうとは思わないことに気付いた」。
「人間は面倒なことが嫌い。自ら何もしなくても、全自動でデータを取る仕組みが必要」――そう感じた鶴岡CEOは、血液検査のキット開発から方向転換。「トイレに行かない日はなく、本人が意識しなくてもデータが収集しやすい」などの理由から、尿を分析の対象に選んだ。「生活習慣病(医療費ベース)の8割以上は、尿の成分に何かしらの兆候が現れることを示せる統計データもある」と鶴岡CEOは話す。
「さぼりやすい性格の私自身が欲しくなるデバイスを目指した。“健康オタク”になって健康ばかり気にしたくはない。勝手に測定をしてくれて楽に過ごせるほうが幸せだと考えた」と鶴岡CEO。将来は、医療機器として製造・販売認可を得ることも視野に入れているという。「高齢者が全員、病院に行けるわけではない。在宅医療などで治療や診断の補助となれば」(鶴岡CEO)。
IoTや人工知能など、最新テクノロジーで私たちの生活を変えようと挑戦するスタートアップ。彼らの新サービスのすごさと、その情熱を伝えます。
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