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2017年05月11日 12時01分 UPDATE

火星に「氷の家」をつくる建築家・曽野正之さんに聞く 「地球も火星も同じ。結局住むのは人だから」

彼らが追い求めていたのは、「物体」としての建築ではなかった。

[太田智美,ITmedia]

 「地球も火星も同じ。結局住むのは人間なんだから」――。

 米航空宇宙局(NASA)が2015年9月に行った火星基地設計コンテスト「3D Printed Habutat Challenge」で、建築家・曽野正之さんらのチームが優勝したのをご存じだろうか。火星基地設計コンテストの優勝作品は、NASAの宇宙飛行士4人が1年間滞在する基地として2035年ごろの実現を目指し実際に建設される。彼らのデザインした「MARS ICE HOUSE」(火星の氷の家)は、3Dプリンタを用いて作られた氷でできた家。そのデザインは多くの注目を集め、多数のメディアでも報じられた。

 そんな彼らに、インタビューする機会が得られた。筆者はルクセンブルク最大規模のICT(情報通信技術)イベント「ICT Spring Europe 2017」に訪れていたのだが、そこへ曽野さんらはゲストスピーカーとして招待されていたのだ。なぜ火星での建築を計画したのか、どうしてこのような設計になったのか、現地で話を聞いた。


MARS ICE HOUSE 「MARS ICE HOUSE」(火星の氷の家)

MARS ICE HOUSE 登壇者として招待されていた曽野正之さん(右)とオスタップ・ルダケビッチさん(左)

 インタビューに応じてくれたのは、MARS ICE HOUSEを考案した曽野正之さんとオスタップ・ルダケビッチ(Ostap Rudakevych)さん。彼らは自身で立ち上げた会社「CLOUDS AO」で働いている。曽野さんとルダケビッチさんが知り合ったのは、曽野さんがシアトルの大学院に通っていたときのこと。友人を通じて出会い、10年以上飲み友だちだったという。

 2人とも、もともと宇宙やSFに興味はあったが、それぞれ別の会社に勤める建築家だった。火星に家を建てようと思ったのは「NASAがコンテストをやるから」。宇宙建築なども学んではいたものの、応募動機はあっさりとしていた。それまではどちらかというと、地球上の災害対策をメインに活動していたという。

 「そもそも地震などの災害で逃げられないのは、地面に家があるから。ならば、ヘリウム風船や偏西風で、家を浮かせばいい」(2006年)――若いころ地震の被害にあった2人は、こんなことを考えていた。


MARS ICE HOUSE

MARS ICE HOUSE オスタップ・ルダケビッチさん

 もちろん「家を浮かせばいい」というのはコンセプトモデルで、実際の技術がどうだとか実現の可能性などはまだ考慮されていなかった。彼らが追い求めていたのは、物体としての建築ではなく、「人間の生き方」だった。

 ケーブルで家をコントロールしたり、小型のドローンのようなもので家を釣ったり、地上の建物と浮遊する建築物をドッキングさせたりと、常にあらゆるアイデアが沸いていた。


MARS ICE HOUSE MARS ICE HOUSE断面図。ロボットは、建物の外で氷を採掘して水にする機体と、外側壁と内側壁の間に挟まれて3Dプリントする機体の合計2機体が必要となる。ロボットで氷を掘り、一度水にしてから建物を3Dプリント。水は外に出たら自動的に氷になるため、特別なことをしなくてもいい。当初ロボットアームでの建築も考えたが、アームではどうしても届かないところが出てきてしまうため断念したという

 そんな彼らから生まれたMARS ICE HOUSEの特徴は、「氷で作れる」ことと、独特の「曲線美」だ。

 宇宙建築で最初に立ちはだかるのは、材料の調達。地球から宇宙に資源を持っていくには莫大な費用がかかるため、「材料の現地調達」が宇宙研究で今、重要なキーとなっている。今回のイベント開催国であるルクセンブルクも、小惑星からの材料採掘に非常に力を入れている国の1つだ。

 そこで彼らが思いついたのが氷。水であれば火星にたくさん存在する。それだけではない。氷はわずか5cmの厚さで放射線を安全なレベルまで引き下げ、紫外線と太陽光の両方のガンマ線から人間を守る。氷なので、光に当たればプリズムのように輝き美しい。

 このアイデアであれば、地球から運ぶのはその原料となる水を採掘する機械のみでいい。水を採掘後、その機械は自分の走る氷のレールを自分でプリントし、宇宙飛行士が到着するころには無人で建物が建っている状態となる。メンテナンスも自動で行い、何か問題が起きれば地球上からコマンドを叩く。

 曲線美については、幾何学を使っている。曲線は角度によって汚く見えてしまうこともあるため、建築でを使うのは難しいという。しかし、火星では前述のとおり持っていける材料が限られている。広い空間を作るには多くの材料が必要となるため、あまり大きな建築ができないのだという。人間は角を消すと奥行きが分からなくなるという性質を持つそうだが、広がりを持たせたい火星の建築に曲線はぴったりなのだという。


MARS ICE HOUSE プリズムのように輝くMARS ICE HOUSE

縦長なのはダストが付きにくいため

 悩まされたのは気圧。気圧のない火星では、外側の氷部分がドライアイスのように気化してしまうのだという。それを防ぐために、本来は風などの影響を考えて建物の内側で囲う熱可塑性フッ素樹脂(ETFE)を外側で囲うことで課題を解決した。


MARS ICE HOUSE 縦長なのはダストが付きにくいように

MARS ICE HOUSE 曽野正之さん

 MARS ICE HOUSEは「3Dプリント技術を使った建築」という点でも注目を浴びているが、実はこれは「応募条件に3Dプリント技術を使うこと」と記載があったため。氷の家の場合は必ずしも3Dプリント技術でなくても建築可能で、実際の建設を考えると3Dプリントでない方が現実的だったりもするという。

 そして2017年5月9日、「ICT Spring Europe 2017」で彼らの次なるプロダクトが公開された。金星での建築だ。

 金星は、地表から50キロメートルの環境が地球と似ている。気圧があるので放射線の心配なく、急に爆発することもない安全な環境で、木も育てられるのではないかと彼らは考える。火星建築について調べれば調べるほど、金星という環境が人が住むのに適していると感じるようになったそうだ。「地上50キロメートルが住みやすい環境なら、地上50キロメートルのところに自分たちで水平線を作ればいい」(曽野さん)


MARS ICE HOUSE 金星建築のプロダクトビジュアル。実現するのは今から100年後くらいだろうと推測する

MARS ICE HOUSE 地球に何かあった時のための、植物の保存場所にもつかえると考えられている

 地球上での建築、火星での建築、金星での建築……と徐々に建築の星を広げているCLOUDS AOだが、そのことについて彼らはこう話す――「地球も火星も同じ。結局住むのは人間なんだから。もっとリラックスして人間のためにつくればいい。『なーんだ、同じようにやればいいんだ』ってね」。

太田智美

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