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2017年05月22日 13時59分 UPDATE

神奈川県と同じ広さの小国「ルクセンブルク」で見た、ちょっと意外なスタートアップ環境

民間が運営するインキュベーションと、政府系インキュベーション、2つの施設を見てきた。

[太田智美,ITmedia]

 ルクセンブルク大公国(以下、ルクセンブルク)は、神奈川県よりやや広い程度(2586平方キロメートル)、人口は東京都板橋区よりやや多い57万6249人(2016年1月、ルクセンブルク統計局)の小さな国。1人あたりのGDPがとても高いことでも知られている。今回、ルクセンブルク最大規模のICTイベント「ICT Spring Europe 2017」(5月9〜10日)の開催に伴い、筆者は現地に訪れた。

 イベント前日、ICT Spring Europe 2017に出展するアジア圏のスタートアップ企業向けのツアーが行われた。訪れたのはルクセンブルク経済省と2つのインキュベーションオフィス。かつては農業・鉄鋼業が盛んだったルクセンブルクは現在、国を支える軸となる新産業を創出しようと、スタートアップ支援に力を入れている。

 訪れたのは、2年前にできたばかりのインキュベーションオフィス「Paul Wurth Incub」と、街から少し離れたエシュ=シュル=アルゼットという街にある「Technoport」。この2つの施設の違いは、運営組織にある。Paul Wurth Incubは民間運営であるのに対し、Technoportは政府系インキュベーション施設だ。

 主に、規模の大きめなスタートアップはTechnoport、小さなスタートアップはPaul Wurth Incubに入居する傾向にあるというが、その逆もあり、インキュベーション施設同士で競争関係にはないそうだ。入居者は、立地や得意分野にあったほうを選び、途中で施設の変更をすることも可能だ。ちなみに、ルクセンブルクには11のインキュベーション施設がある。


ルクセンブルクインキュベーション Paul Wurth Incubのジェネラルマネージャー・セバスチャン ヴィールツ(Sebastien Wiertz)さん

 はじめに訪れたのは、民間のPaul Wurth Incub。ここは、10のキーワードを掲げ、技術交換を行う場として位置づけられている。10のキーワードとは次の通りだ。

  1. IoTやクラウドコンピューティング・VRなどを行う「Industry 4.0」
  2. 電子追跡技術・群衆の監視と管理・危険な作業などをロボットにお願いする「Smart safety」
  3. 廃水処理やCO2浄化に取り組む「CleanTech」
  4. 3D印刷用金属粉末・ナノコーティングなどの技術を活用して地産地消を目指す「New manufacturing technologies」
  5. 再生可能エネルギー・分散型発電の「EnergyTech」
  6. 3Dスキャン技術やビッグデータ管理などを行う「Smart construction & healthy buildings」
  7. CO2排出量の最小化などに取り組む「Smart engineering applications & processes」
  8. ロボット工学と人工知能を研究する「Robotics & Artificial Intelligence」
  9. 物流の自動化を行う「Advanced logistics & sustainable mobility」
  10. 鉱山技術の最適化や資源管理を行う「Mining & resources management」

 これらのテーマに対し、インキュベーションオフィスでは審査ののち、技術支援や市場分析などのサポートを行っている。会社同士をつなぐネットワーキングはもちろんのこと、入居するスタートアップ企業に信用を与えることで、投資機関がアクセスしやすいようにするそうだ。ここには月面資源開発に取り組むispaceなどのスタートアップ企業が入居している。


ルクセンブルクインキュベーション 入り口にはPaul Wurth Incubのロゴである光るキューブが置かれている

ルクセンブルクインキュベーション 中に入ると、まず目に入るのがコミュニケーションスペース。ソファやゲーム台も用意されている

ルクセンブルクインキュベーション ルクセンブルクにはなぜかこのゲームが置かれていることが多い

ルクセンブルクインキュベーション Paul Wurth Incubで1番広い会議室

ルクセンブルクインキュベーション 入居スペース

ルクセンブルクインキュベーション

ルクセンブルクインキュベーション

ルクセンブルクインキュベーション ispaceが入居している部屋

ルクセンブルクインキュベーション あの月面探査機ローバーの模型も

ルクセンブルクインキュベーション ミーティングスペース

ルクセンブルクインキュベーション 現在部屋を拡張中

ルクセンブルクインキュベーション 拡張される部屋の壁には絵も?

ルクセンブルクインキュベーション 机はセバスチャンさんの手作り

ルクセンブルクインキュベーション 冷蔵庫やコーヒーメーカーが置かれた部屋も

ルクセンブルクインキュベーション

ルクセンブルクインキュベーション トイレのマークがかわいい

 次に訪れたのは、政府系インキュベーション「Technoport」。この施設には、新しい見守りデバイスを開発している企業やフィンテック系のスタートアップ企業などが入居しており、広々とした建物の中にはビリヤードやゲーム機がおいてある。

 Technoportは、パートナーの大手IT企業からAmazon Web ServiceやPayPal Startup BlueprintMicrosoft BizSparkIBM Bluemixなどのサポートプログラムが提供されており、応募・選考プロセスを経て技術支援などが受けられる。ものづくりワークショップ「ファブラボ」(Fabrication Laboratory)やコワーキングスペースも用意され、精度の高い3Dプリンタの利用も可能だ。


ルクセンブルクインキュベーション Technoportは鉄鋼業が盛んだった街の跡地に建てられている

ルクセンブルクインキュベーション

ルクセンブルクインキュベーション

ルクセンブルクインキュベーション

ルクセンブルクインキュベーション 受付

ルクセンブルクインキュベーション 広々としたコワーキングスペース

ルクセンブルクインキュベーション

ルクセンブルクインキュベーション 自販機が置かれている

ルクセンブルクインキュベーション ゲームがたくさん

ルクセンブルクインキュベーション

ルクセンブルクインキュベーション ここにもあのサッカーゲームが

ルクセンブルクインキュベーション ビリヤード台も

ルクセンブルクインキュベーション キッチン

ルクセンブルクインキュベーション 壁に最新情報が貼られている

ルクセンブルクインキュベーション パートナー企業のロゴが扉に

ルクセンブルクインキュベーション 上から電源のたこ足がつるされているのが少し不思議な感じ

ルクセンブルクインキュベーション 全体的に広々とした印象

ルクセンブルクインキュベーション いろんなタイプの椅子やテーブルがある

ルクセンブルクインキュベーション 車いす用のトイレも完備

ルクセンブルクインキュベーション 壁にはTechnoportの変遷が

ルクセンブルクインキュベーション 入居者はこの奥のスペースに

ルクセンブルクインキュベーション 扉を開けると部屋が並んでいる

ルクセンブルクインキュベーション 入居者の仕事風景

ルクセンブルクインキュベーション 開発中のプロダクトかと思いきや、空間づくりも大事にしているもよう

ルクセンブルクインキュベーション こちらも空間づくりのために置かれた既存の製品。これほしい

ルクセンブルクインキュベーション 彼らが作っているプロダクトはこちら。フクロウ型の見守りデバイス


ルクセンブルクインキュベーション

ルクセンブルクインキュベーション 建物外観

ルクセンブルクインキュベーション 中心部からは少し離れているが、鉄鋼業が盛んだったころのルクセンブルクの姿が残っている

 神奈川県ほどの小さな国なのに、このようなインキュベーション施設が11もあるというちょっと意外なルクセンブルク事情。このことからも、スタートアップ支援への力の入れようが垣間見える。

太田智美

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