ルクセンブルク大公国(以下、ルクセンブルク)は、神奈川県よりやや広い程度(2586平方キロメートル)、人口は東京都板橋区よりやや多い57万6249人(2016年1月、ルクセンブルク統計局)の小さな国。1人あたりのGDPがとても高いことでも知られている。今回、ルクセンブルク最大規模のICTイベント「ICT Spring Europe 2017」(5月9〜10日)の開催に伴い、筆者は現地に訪れた。
イベント前日、ICT Spring Europe 2017に出展するアジア圏のスタートアップ企業向けのツアーが行われた。訪れたのはルクセンブルク経済省と2つのインキュベーションオフィス。かつては農業・鉄鋼業が盛んだったルクセンブルクは現在、国を支える軸となる新産業を創出しようと、スタートアップ支援に力を入れている。
訪れたのは、2年前にできたばかりのインキュベーションオフィス「Paul Wurth Incub」と、街から少し離れたエシュ=シュル=アルゼットという街にある「Technoport」。この2つの施設の違いは、運営組織にある。Paul Wurth Incubは民間運営であるのに対し、Technoportは政府系インキュベーション施設だ。
主に、規模の大きめなスタートアップはTechnoport、小さなスタートアップはPaul Wurth Incubに入居する傾向にあるというが、その逆もあり、インキュベーション施設同士で競争関係にはないそうだ。入居者は、立地や得意分野にあったほうを選び、途中で施設の変更をすることも可能だ。ちなみに、ルクセンブルクには11のインキュベーション施設がある。
はじめに訪れたのは、民間のPaul Wurth Incub。ここは、10のキーワードを掲げ、技術交換を行う場として位置づけられている。10のキーワードとは次の通りだ。
これらのテーマに対し、インキュベーションオフィスでは審査ののち、技術支援や市場分析などのサポートを行っている。会社同士をつなぐネットワーキングはもちろんのこと、入居するスタートアップ企業に信用を与えることで、投資機関がアクセスしやすいようにするそうだ。ここには月面資源開発に取り組むispaceなどのスタートアップ企業が入居している。
次に訪れたのは、政府系インキュベーション「Technoport」。この施設には、新しい見守りデバイスを開発している企業やフィンテック系のスタートアップ企業などが入居しており、広々とした建物の中にはビリヤードやゲーム機がおいてある。
Technoportは、パートナーの大手IT企業からAmazon Web ServiceやPayPal Startup Blueprint、Microsoft BizSpark 、IBM Bluemixなどのサポートプログラムが提供されており、応募・選考プロセスを経て技術支援などが受けられる。ものづくりワークショップ「ファブラボ」(Fabrication Laboratory)やコワーキングスペースも用意され、精度の高い3Dプリンタの利用も可能だ。
神奈川県ほどの小さな国なのに、このようなインキュベーション施設が11もあるというちょっと意外なルクセンブルク事情。このことからも、スタートアップ支援への力の入れようが垣間見える。
(太田智美)
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