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なぜ最速の動物は最大の動物ではないのか? ドイツ研究

» 2017年07月20日 16時55分 公開
[井上輝一ITmedia]

 地上最速の動物といわれるチーターが、より小型なネズミよりも速く、より大型なゾウよりも速いのはなぜだろうか。この疑問を説明する研究結果が、英国の科学雑誌「Nature」の姉妹誌「Nature Ecology&Evolution」にこのほど掲載された。論文が示した理論モデルは、チーターに限らず中型動物が最速である理由を説明するという。

 ドイツの研究者、ミリアム・ヒルトさんらは、「加速に必要な時間が、ある動物が到達できる最高速度の決定的な要因だ」と説明する。

 動物が加速する際に、筋肉は瞬間的にエネルギーを取り出せる無酸素運動で動く。無酸素運動で使えるエネルギーが尽きたときが最高速度になるが、無酸素運動で筋肉が利用できるエネルギーは多くないという。

 従来知られている理論に従えば、体重が重いほど理論上の最高速度が上がるとされている。しかしこの理論では、大型動物として知られるゾウやシロナガスクジラが、中型のチーターやカジキマグロほど速くないことが説明できない。

 そこで研究者は、従来の理論に「加速に必要な時間」を加味して新たな理論を構築した。体重の重い動物ほど、最高速度の理論値に達するまでには長い加速時間が必要だが、上述したように加速の無酸素運動のために使えるエネルギーは限られている。これらの情報を加えて曲線に表したのが、下図の左側dのグラフだ。

 つまりこれは、「大型動物は、理論上の最高速度に達するほど長時間の無酸素運動ができないために、中型動物ほど速く走れない」ということを表している。“こぶ”形の曲線を描くその式は、走る動物の他に飛行する動物、泳ぐ動物でもよく一致するという。

従来の理論と今回論文で示されたモデル飛行、歩行、遊泳する動物それぞれでモデルと一致 従来の理論(左図a, b)と今回論文で示されたモデル(左図c, d)、飛行、歩行、遊泳する動物それぞれでモデルと一致(右図)

 この“こぶ”形曲線は、絶滅種の最高速度も予測できるという。現存種のデータに合わせた曲線を延長すると、体重20キロの恐竜ヴェロキラプトルよりも体重6トンのティラノサウルスの方が速度が遅く、さらに重い27トンの草食恐竜アパトサウルスの方がもっと遅いことが分かる。

絶滅した恐竜など、現存種より大型な動物種の最高速度も予測できるという

 絶滅種の形態学的モデル計算の結果を曲線モデルを作る際のパラメータにしなくても、曲線が形態学的モデルから来る値と良く一致していることから、今回のモデルはより大きな動物種についても適切な予測が行えると研究者は考察で述べている。

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