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少子化・財政難に苦しむ大学 “ゲーム感覚”の「卒業生寄付サービス」は救世主となるか“日本が知らない”海外のIT

» 2017年08月17日 07時00分 公開
[細谷元ITmedia]

少子化で苦しむ大学 財政難を救うのは「寄付金」か

 日本の大学の多くが少子化の煽りを受け、定員割れや経営・財政難の問題に直面している。特に、地方私大の状況が深刻といわれている。このまま少子化が進めば、有名校でもいずれは定員割れが常態化するのは必至だ。

 大学が生き残るには、ニーズの高い学部の設置や設備の充実、留学生の受け入れなど、さまざまな対策が必要になってくる。

 対策の1つとして考えられるのが「卒業生からの寄付金」だ。日本ではまだ広く浸透していないが、米国や英国の大学では卒業生からの寄付金が重要な財源の1つとなっている。

連載:“日本が知らない”海外のIT

日本にまだ上陸していない、IT関連サービス・製品を紹介する連載。国外を拠点に活動するライター陣が、日本にいるだけでは気付かない海外のIT事情をお届けする。


 そこで今回、バルト三国ラトビア発のスタートアップが提供している「Funderful」を紹介したい。Funderfulは、大学の卒業生(alumni)から寄付金を効率的に募るためのWebプラットフォーム。

寄付 Funderful
寄付 オックスフォード大学キーブルカレッジがFunderfulプラットフォームで実施した寄付キャンペーン

 ラトビア国内外でのスタートアップ・ピッチイベントの受賞実績に加え、ベンチャーキャピタル米500 Startupsなどから出資を受ける注目スタートアップだ。

 また、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、ロンドンビジネススクール、アメリカン大学などトップ大学含めた世界8カ国での導入実績もあり、投資家だけでなく大学関係者の間でも関心が高まっている。

 どのようなサービスなのか詳しく見ていきたい。

“ゲーム感覚”で寄付ができる

 Funderfulは、大学の寄付金担当者が効率的に寄付キャンペーンを実施できるよう支援サービスを提供。キャンペーンに際して、Funderfulプラットフォーム上で、ソーシャルメディア、メール、Webサイトを連携させ、キャンペーンの認知度を高め、寄付金を募る。

 ゲーミフィケーションの要素を散りばめ、卒業生が楽しみながら気軽に寄付できるのが特徴。例えば、卒業生がFacebookでキャンペーンに関して投稿し、その投稿がシェアされた数で寄付金額が増えていく仕組み「Facebook Challenge」を用意する。投稿のシェア数が増えるごとに、その卒業生の寄付額が増えていくが、卒業生にとっては母校への貢献度が高くなっていく心理的充足をもたらす。

寄付 Funderfulが提供する「Facebook Challenge

また、Funderfulプラットフォームでは支払いシステムを組み込み、気軽に寄付できる環境を作ることができる。通常寄付をするときには、面倒な書類記入が必要で、それが寄付する動機を下げてしまっていることがある。そうした煩わしさを省くことで、普段寄付をしないひとでも気軽に寄付してくれるようになるのだ。

 Funderfulの創業者、レイモンズ・カルバーグ氏によると、米国では毎年大学卒業生による寄付総額は110億ドル(約1兆2000億円)に上るが、Funderfulでさらに効率化できればその3倍は募れるという。

 Funderful導入で、すでに実績を出している大学もある。

 アメリカン大学は、Facebook Challengeを活用し、寄付キャンペーンを実施したところ、寄付金額は前年比74%増、キャンペーン参加率は28%増となった。

 英フォルフソン大学は、Funderfulのキャンペーンを通じて、74万ドル(約8000万円)の寄付金を集めることに成功した。それまでのネット上の寄付キャンペーン最高額は7万2000ドル(約800万円)だったので、10倍以上増えた計算になる。

価値観変化の時代、「透明性」確保がカギ

 Funderfulが寄付キャンペーンで実績をあげることができるのは、テクノロジー的な強みに加え、学生・卒業生との関係構築においても知識があるからだ。そうしたノウハウを大学と共有することで、寄付キャンペーンを成功に導いている。

 学生・卒業生との関係構築は、これまで以上に重要になる可能性がある。なぜなら、独自の価値観を持つミレニアル世代(21〜34歳)やZ世代(12〜20歳)が、それ以前の世代と同様に寄付してくれるかどうか分からないからだ。

 特に、近年では寄付文化のある米国や欧州でも寄付に対する関心が薄れつつあるともいわれており、有名大学でも油断できない状態だ。

 ミレニアル世代やZ世代の寄付への関心が薄れている理由の1つが、「学費の使途が不透明」なこと。学生時代にそうした不信感が1つでも芽生えてしまうと、将来卒業後に寄付する動機は起こらない。そうした状況を回避するためには、大学における学費や寄付金の使途の透明化が何より重要になる。

 それに次いで重要なのが、学生のうちから寄付キャンペーンに参加してもらい、キャンペーンの重要性を知ってもらうことだ。学生時代に寄付キャンペーンに参加した人ほど、卒業後も大学への帰属意識が強く、寄付の重要性を理解し、寄付する可能性が高いと考えられるからだ。

 少子化が進む日本。大学を取り巻く状況は厳しくなっていく一方だが、寄付金という新しい文化を醸成することで、生き残りの道が切り開けるかもしれない。

執筆:細谷元(Livit

編集:岡徳之(Livit


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