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「人型でないと売れない」「飛行機はやめてほしい」――マクロス「バルキリー」生みの親・河森さんの“受難”

» 2017年12月23日 09時00分 公開
[片渕陽平ITmedia]
photo 河森正治さん

 「人型でないと売れない」「とにかく飛行機だけは売れないからやめてほしい」――アニメ「超時空要塞マクロス」(1982年放送)の演出やメカニックデザインを担当した河森正治さんは、当時そんな反発に遭いながらも可変戦闘機「バルキリー」を生み出した。その根底には「とにかくガンダムとは違うものを作る」という思いがあったという。

 ディー・エヌ・エー(DeNA)、創通、文化放送のアニメ制作プロジェクト「Project ANIMA」の発表イベント(12月20日)に登場した河森さんが、バルキリーを考案した当時を振り返った。

「人型でないと売れない」

 「中学生の頃は、機械工学を学んで本物のクルマや飛行機を作るつもりだったが、数学の才能がなく『アニメなら作れるのではないか』と思った」――そんな考えが、河森さんの原点。中学3年生のときに「宇宙戦艦ヤマト」などを手掛けた「スタジオぬえ」を見学し、高校生になるとスタジオに出入りして「機動戦士ガンダム」企画段階の資料を「こっそりと見ていた」(河森さん)。1978年に入社し、後にバルキリーを生み出すことになる。

 「新しい企画を作ろうという話になり、『絶対に“ガンダムではないもの”にしよう』と、最初は人型ではないロボットを考えた」(河森さん)。しかし「人型でないと売れない」と周囲から反発を受け、あえなく没に。宇宙戦艦や戦闘機を人型に変形させようと試行錯誤を続け、たどり着いたのがバルキリーだったという。

 バルキリーは、ファイター(戦闘機形態)、ガウォーク(中間形態)、バトロイド(人型形態)と変形するのが特徴だ。だが当時「玩具メーカーからは『とにかく飛行機だけは売れないから止めてほしい』とお願いされた」という。「仕方がないので試作品を作り、玩具メーカーに持ち込んで目の前で変形させてアピールした」

 マクロスに降りかかった“受難”はそれだけではなかった。マクロスでは、戦争と並行してリン・ミンメイがアイドル歌手へと成長していく姿が描かれる。アニメプロデューサーの松倉友二さん(J.C.STAFF執行役員)は「ロボットアニメ業界的には『発明』だった」と評するが、放送当時は「戦場で歌うのは不謹慎と言われ続けた」(河森さん)。

 「第二次世界大戦でもベトナム戦争でも歌手が慰問で戦地を訪れて歌っている。しかし当時の日本では『ガンダム=戦争』というイメージが出来上がっていた」と河森さんは振り返る。「ガンダムが嫌いなわけではない。大好きだったからこそ絶対に違うアイデアを出したかった。ガンダムファンから一番嫌われそうなものは『アイドル』(歌)だろうという考え方だった」

アニメ業界で日本は「いつの間に後進国になったのか」

 マクロスが当時の“固定観念”を破った一方、河森さんは昨今のアニメ業界では「同じ企画が連発されているのではないか」と話す。「生まれ変わりモノ、学園魔法モノがいくつも同時に出ている。もちろんその中には優れた作品もあるが、一種のテンプレートになっている」

 「いまの日本のアニメ業界はすごく作品数があって活気があるが、各国のコンベンションに出向いて、世界の動きを見ていると『かなり日本はヤバイ』。いつの間にこんなに後進国になったのかと思うほど衝撃を受けた。日本発信という考えも古いかもしれないが、オリジナルコンテンツを作らなければ、全部ディズニーに飲み込まれる」(河森さん)

 20日に始動したアニメ制作プロジェクト「Project ANIMA」では、原案を一般募集し、2020年の放送を目標にテレビアニメ3作品の制作を進める。河森さんが所属するアニメ制作会社サテライトは、第1弾「SF・ロボットアニメ部門」の映像化を担当。原案の選考にも携わる。

 「飛行機やクルマ、本物の機械を作りたかった。人型ロボットは、ロボットモノというフィクションとしては楽しめるが、こんなのリアルじゃないだろうと思って作っている。人型は嫌いなんですよ。けれども嫌いなことに取り組んで、好きなものと嫌いなものを混ぜるとちょうどいい作品が生まれる」(河森さん)

 河森さんは「いまの時代は(ユーザーが)すごくメディアに近しいのでデビューしやすいが、生き残るのが難しくもある。ものすごく好きな題材で書ける力だけでなく、嫌いなものでも書ける能力があると生き残りやすい」と、“まだ見ぬ”応募者にメッセージを送った。

photo 左から、動画工房の平松岳史さん(デジタル作画チーフ)、サテライトの河森正治さん、J.C.STAFFの松倉友二さん(執行役員制作本部長)、声優の緑川光さん、DeNAの上町裕介さん(プロデューサー)

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