ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

「“ログボの必然性”考えて」――「Fate/Grand Order」塩川洋介氏が抱く、クリエイター教育の課題(2/3 ページ)

» 2018年04月05日 06時00分 公開
[井上輝一ITmedia]

米国の「共通化」文化とは

 「(米国の)ゲーム業界全体で『共通化』がうまくいっているんですよね」と塩川さんは話す。

 共通化は、制作に関わる用語や制作環境となるミドルウェアに見られるという。

 「あるスタジオを辞めて新たなスタジオに行っても、同じ文化や同じ用語、同じワークフローなので、会社の文化を一から教える必要がありません。共通のミドルウェアを使うという発想も(当時の)日本のゲーム業界にはなかったように思います」――塩川さんは、共通化のメリットや当時の状況をそのように説明する。

 「今でこそ日本でも『Unreal Engine』や『Unity』を使い始めていますが、(当時の共通化については)例えば『吉里吉里(※)』の方がよっぽど進んでいました。吉里吉里の使い方を覚えさえすればアドベンチャーゲームを作れるじゃないですか。つまり、自分たちではエンジンは作らず、『ゲームを良くすること』に専念できますよね」(同)

Unreal EngineUnity ゲームエンジンの「Unreal Engine」(左)と「Unity」(右)

(※吉里吉里:Windows向けのゲームスクリプトエンジン。Windows版『Fate/stay night』などのゲームエンジンとして使用されている)

 「ゼロとまでは言わないけれど、エンジンを作るパートには工数を割かなくて済む。そういうところでスタート地点から違ったわけで、勝算も勝率も変わるよなと」

 また、開発の第一線にいるクリエイターが大学に頻繁に講義をしに行く様や、クリエイター向けの専門書籍が日本に比べて桁違いに充実していることも目の当たりにした。

 後進のクリエイターを育てる仕組みや取り組みが、米国に比べて日本は遅れている――そんな日米の環境の違いに危機感を抱いた塩川さんは、「問題提起だけしていても仕方ないから」と自ら実行に移す。

 2010年に講演活動を始め、これまで話した人を数えると延べ3000〜4000人に上る。また、海外のゲームクリエイター向けの専門書の和訳に監訳として関わり、3冊の書籍を日本で出すことができた。

単発講義の限界と出会い

 単発での講義を繰り返し行ってきたが、「クリエイターを育てる」という意味では限界を感じ始めていたという塩川さん。

 「ある時、非日常的な人が来て講義をしたら印象には残りますが、それ以上でも以下でもない。何か継続性のある取り組みもしないといけない」と、次のステップを考えていたという。

 そんな中、大阪成蹊大学で准教授を務めながら、現役のゲームアートディレクターとして活躍する川和夕記さんを通じて、同じく大阪成蹊大学で教べんを執る糸曽賢志さんと出会った。糸曽さんは週刊少年ジャンプで読み切り漫画を執筆後、コナミで「遊戯王」のカードイラストなどを担当。独立後は「Xperia XZ」のCMの監督や、今敏監督の遺作「夢みる機械」の演出など、さまざまな商業プロジェクトに携わり、32歳で大阪成蹊大学の特別招聘教授に就く。以降7年間、教壇で学生に教えつつも商業の映像制作を続ける現役のクリエイターだ。

 塩川さんの活動を知り、話を聞く中で意気投合した。「大学に『年間のカリキュラムを(塩川さんに)やってもらえないものか』と提案したところ、意外とすんなり通った」と糸曽さんは振り返る。

 塩川さんは「まずは単発で講義をさせていただいたんですが、1つの場所に腰を据えてカリキュラムを組むということが自分にとっての新たなチャレンジだったから、やる意義があるかなと。タイミングも含めてマッチしました」と話す。

大阪成蹊大学の糸曽賢志さん(左)と、ディライトワークスの塩川洋介さん(右)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.