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「海賊版サイトのブロッキングは憲法違反」「漫画村は国内から配信されている」 楠正憲さんに聞く(2/3 ページ)

» 2018年04月12日 09時10分 公開
[岡田有花ITmedia]

――DNSブロッキングは、ユーザーとISPの間で完結しており、第三者が介在しないため、通信の秘密を侵害には当たらないという意見もある。

 DNSが行っている名前解決(ドメイン名からIPアドレスを検索すること)を、「単独の通信」とみるか、「通信の全体フローの一部」と見るかで異なる。前者ならDNSサーバ自体が通信の当事者となるので通信の秘密の侵害に当たらないとする見方もあるが、後者なら、一連の通信のやりとりを途中で止めているという扱いになり、通信の秘密を侵害すると考えられる。これまでの通説や政府見解は後者だ。前者の考え方は、警察庁の総合セキュリティ対策会議や総務省、経産省の研究会でも議論され、否定されており、政府も「DNSブロッキングは通信の秘密の侵害に当たる」と認識している。

「漫画村」は「日本から配信されている」

――現在、最大規模とみられる漫画海賊版サイト「漫画村」は、「日本と国交がない海外にサーバがあり、海賊版コンテンツを配信しても違法ではない」と主張している。

 日本国内から日本語で日本人に対してサービスを配信していれば、その実態が問題であり、どこに元サイトがあるかはそれほど重要ではない。

 日本から漫画村にアクセスした際の経路を調べると、米CloudflareのCDNサービス(Content Delivery Network、コンテンツを効率的に配信するネットワーク)を使い、米データセンター大手EQUINIXの設備から配信している可能性が高い。CloudflareのWebサイトには、「東京と大阪にデータセンターがある」と書かれており、おそらく、日本国内にあるEQUINIXのデータセンターの中に、Cloudflareの機材を置いているのだろう。Cloudflareの後ろにある元サイトが海外にある可能性は否定できないが、配信行為そのものは、日本国内の施設の設備から行われている。

画像 CloudflareのWebサイトより。東京と大阪にデータセンターがあると書かれている

――「漫画村」は海外にサーバがあるため、日本からなかなか取り締まれず、ブロッキングに頼るしかないという声もある。

 確かに課題はあるが、できることはあるはずだ。少なくとも日本国内の設備から配信されているサイトに対しては、日本法を執行できるべきだ。CDNや、CDN設備を設置している日本の事業者に配信停止を求めたり、訴訟を起こしたり、広告事業者にアプローチし、収益源を止めることなどはできないのだろうか。出版業界はどこまでその努力をしているのか? いろいろと努力はしているとは思うが、その実態が明らかになっていない。

 漫画村自体は2017年の夏前にはあったようだ。昨夏の段階で、「運営者は日本人のこの人ではないか」といった情報も出ており、警察への情報提供もあったのではないか。それから半年以上経っている。出版社などはこの間に、被害回復のために何をやってきたのか。

 官邸に働きかける前に、裁判で海賊版サイトを訴えるなど、現行法の範囲でできることをやるべきだ。また、日本国内に拠点を持つCDNや、そのCDNに対して場所とネットワークを提供している通信事業者に対して、総務省が行政指導するといったことも可能なはずだ。

 海外のクラウドサービスやCDNを使って運営者をごまかすだけで、日本の法律が一切通じないという世界は、そもそもおかしい。日本のネットの場合、サイト運営者に違法情報の削除義務がなく、違法情報を放置しても罰則がない。著作権侵害に限った話ではなく、ネット上の違法情報に対して削除義務を課すことは、08年、青少年インターネット利用環境整備法の際に総務部会案として検討されたこともあったが実現しなかった。

出版社が採れる対策は?

――海賊版サイト被害に苦しむ出版社が採れる対策には、どのようなものがあるか。

 まず行うべきは、海賊版サイトや配信元への差止請求だ。日本で裁判を起こす場合、訴訟の名宛人を特定する必要があるが、サーバが海外にあると突き止めることが難しい。米国法なら相手が不明でも訴訟を起こすことができる。海外の通信事業者を悪用した不法行為が増えている現実を踏まえ、米国と同様、加害者を特定しなくても差止請求を行えるように、プロバイダー責任制限法をはじめとした関連法令を見直す必要があるだろう。

 DMCA(米デジタルミレニアム著作権法)に基づく削除申請も一つの手段だ。DMCAに基づき、出版社からGoogleに対して、漫画村を検索に表示しないよう通知が送られ、一部のページが検索結果から消えるなど、ある程度機能しているようだ。

画像 複数の出版社がGoogleに対し、漫画村に掲載された著作権侵害コンテンツについて、DMCAに基づく削除申請をしている。その一つ、カナダHarlequin Enterprisesとハーパーコリンズ・ジャパン(それぞれ米HarperCollins傘下)による削除申請で、漫画村の一部ページが4月11日ごろGoogle検索から消え、話題になった(画像はDMCA侵害の報告内容を確認できるサイト「Lumen」より)

 米国のCDN・Cloudflareに対しても、DMCAに基づく削除通知が送られているようだ。もしCloudflareが通知を無視するなら、米国で著作権侵害に基づく訴訟を起こすこともできる。Cloudflareはかつて、裁判所の命令も無視し続けていたが、最近、論文の海賊版サイトが出版社からの訴訟で敗訴したことを受け、このサイトの配信代行を停止するなど、態度を変えつつある。

 また、これは極論かもしれないが、不法行為を継続して、裁判所の命令を無視するような者に対する「自力救済」を認めるのが、最も効果を期待できるのではないか。つまり、海賊版サイトを著作権侵害で訴えて、裁判所から差止命令が出たのに、サイトがそれを無視した場合には、被害者に海賊版サイトをハッキングしてつぶす権利を認めるということだ。この方法なら、ダークウェブに隠れているアングラサイトも含めてつぶすことができる。今回の海賊版サイトの問題で改めて、海外のサイト運営者や通信事業者に対しては日本の法律が及ばず、法執行できない現実が明らかになった。差し迫った状況で自力救済を図ることは、民事上は例外として認められる可能性がある。

 ただ、現状では不正アクセス禁止法で刑事責任を問われてしまう。もし仮に法に基づく正当行為か、正当業務行為として自力救済のために必要な不正アクセスを違法性を阻却できれば、権利者が力業でサイトをテイクダウンできるようになる。国際法やサイバー犯罪条約との整合も含めて極めてハードルが高いが、頭の体操としては面白いと思う。

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