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過熱する“AI人材争奪戦” 「報酬以外の魅力必要」 DeNAの戦略(1/2 ページ)

» 2018年05月08日 06時00分 公開
[村上万純ITmedia]

 研究者やデータサイエンティストなど、優秀なAI人材の争奪戦が過熱している。米Appleや米Googleら大手IT企業が続々とAIベンチャーを買収する中、国内でもAI(人工知能)に造詣の深い人材の獲得で各社が競争を繰り広げている。

 中でも、データ分析や機械学習のさまざまなコンペに参加できる米国発のプラットフォーム「Kaggle」(カグル)で優秀な成績を収めたKaggler(カグラー)と呼ばれるデータサイエンティストたちの需要が高まっている。

カグル データ分析や機械学習のさまざまなコンペに参加できる米国発のプラットフォーム「Kaggle」(カグル)

 エンジニア採用を強化するヤフーは、「エンジニアスペシャリストコース」で必要な経験スキルの1つに「Kaggleの単独参加でコンテストTOP10%の入賞経験」を明記している他、名刺管理サービスのSansanのR&D(研究開発)グループもKagglerの採用に積極的で、複数人のKagglerと、日本では数人しかいない「Grandmaster」(Kaggle内の称号)を2人抱えるという(17年12月公表)。

ヤフー ヤフーの採用ページ

 そんな中、ディー・エヌ・エーがAI研究・開発部門のデータサイエンティストの強化を図るため、業務時間中にデータ分析のコンペに参加できる「Kaggle社内ランク制度」を4月に導入した。

カグル ディー・エヌ・エーが導入した「Kaggle社内ランク制度

 KaggleにはMicrosoftやGoogle(GoogleはKaggleを買収している)などの大手企業もコンペ主催者となり、多額の賞金を用意。参加者は、業務時間後や休日などのプライベートな時間を割いてコンペに参加することが通例のようだが、ディー・エヌ・エーの制度があれば業務時間内での作業が許される。「トップ3入賞5回、うち1回は単独入賞」という優秀な成績を収め、同社制度で「ランクSS」と認められれば、業務時間の全てをKaggleに充てられるという。

 そこまでしても手に入れたいKagglerの魅力とは。また、同社はし烈なAI人材獲得競争をどう勝ち抜こうとしているのか。

日本でも高まる、Kagglerの重要性

 「Kagglerは会社にとって重要な存在だが、日本での知名度はあまり高くない。彼らの価値を日本でしっかり示したい」――ディー・エヌ・エー AIシステム部の山田憲晋部長(システム本部)は、こう話す。

 同社は、自動運転技術を使った宅配サービス「ロボネコヤマト」や、AIを活用したタクシー配車アプリ「タクベル」の他、モバイルゲーム「逆転オセロニア」の開発・改良、プロ野球チーム「横浜DeNAベイスターズ」のチケット販売予測など、さまざまな事業でAI活用を検討。製品開発だけでなく、ディープラーニングなどの研究にも積極的に取り組んでいる。

ロボネコヤマト 「ロボネコヤマト」
山田部長 ディー・エヌ・エー AIシステム部の山田憲晋部長(システム本部)

 山田部長によると、同社のAI系人材は(1)ディープラーニング系の研究者、(2)各事業の課題を発見・改善するデータサイエンティスト、の2つに大きく分かれる。AIシステム部は50人ほどの組織で、分析部隊は各事業部にも偏在している。

 オートモーティブ、ヘルスケア、スポーツなど多岐にわたる事業を手掛ける中で、「一歩進んだ機械学習の活用ができ、事業への展開も含め、高い精度で予測モデルを構築したりできる人材が必要になってきた」(山田部長)

 例えば、天候、対戦相手、日時などのさまざまな条件を考慮し、横浜DeNAベイスターズのチケットの販売予測モデルを機械学習を用いて構築する――などを検討している。山田部長によると、優秀なKagglerは実際に企業が直面する課題に対して、精度の高い予測モデルを作ることに優れているという。

 「アカデミックな知見を持つ人が、必ずしも実用的な事業にマッチするとは限らない。Kagglerは試行錯誤しながらさまざまなコンペに挑戦してきたので、企業が抱える問題に柔軟に対応できる人が多い」(山田部長)

 機械学習への知識だけでなく、実際の事業活用まで落とし込めるのがKaggle人材の強みだ。山田部長は「機械学習を使う問題に対する圧倒的な安心感があり、どれくらいの期間でどれくらいのレベルのものがアウトプットできるのかの見積もりも正確。PDCAを回すのが速く、普通のエンジニアが10時間掛かる作業を1時間で終わらせることもある」と魅力を語る。

 同社はMobageを始め、モバイルゲーム事業のノウハウを長年蓄積してきたが、ゲーム事業でのデータ分析活用の在り方も変わってきたという。

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