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AIは“美しさ”を感じるか ディープラーニングの先にある未来これからのAIの話をしよう(美意識編)(4/4 ページ)

» 2018年07月05日 06時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]
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石川 本質の理解となると、汎用型人工知能を指すのかもしれません。正直、現時点では難しい。人工知能は汎用型、特化型の2種類があり、特化型は特定の分野、特定のタスクで人間の精度を上回る結果を出すもの。汎用型は常に総合的な判断を下している人間と同等以上の結果を出す人工知能です。(AlphaGoをはじめ)いま研究が進んでいるのは前者です。

 大事なことですが、汎用型人工知能は本質的にはできるはずなんです。脳の構造をまねてネットワーク構造を作り、電気信号で内容を把握できれば、将来的には誕生するんじゃないかと思います。でも、それがいつできるかという議論は難しい。

 あと気になったのは、人は生物ですが、人工知能は生物ではありません。生物は知能に加え「生きる目的」がある。究極的には自分の遺伝子を次の世代に受け渡すことです。一方で人工知能には目的がないので、その知能を次世代に残そうという思いもありません。

 「利己的な遺伝子」(リチャード・ドーキンス)という本がありますが、人間は自分の遺伝子を後世に残すために行動する。例えば芸術家は突き抜けた作品を作るニッチ戦略を取り、自分の作品を後世に残す確率を高めようとするが、それも似ている話かもしれない。

 でもAIにそうした意思を持たせるのは、今の技術の進化とは別次元。汎用型人工知能はいまの技術の延長線上では難しく、学問的にジャンプが必要です。

山口 「生存・生殖」が生物の本能だと記したドーキンスの理論で考えれば、人工知能に本能を持たせるのが難しい、という理解でいいですか。

石川 遺伝子は突き詰めると単なるデータです。人工知能と遺伝子を組み合わせれば、有機物ができるかもしれない。一方で、人間が自らの遺伝子をコピーして、人間そのものを創ってはいけないという宗教的発想もある。その是非は人間が考えることですね。

あとがき

 芸能人が一流の品とそうでないものを見抜く、正月の恒例番組「芸能人格付けチェック」が面白いのは、普段良いものに触れているはずの芸能人が意外とバカ舌・バカ耳だからなのと、良いものに触れる感覚を養う難しさに気付かされるからです。

 普段からアート作品にあまり接しない私の場合、その分野の専門家が「これは良い」と評価するものを「ふーん、良いんだ」とほぼ無条件に受け入れ、それを正解と認識しています。

 もし、これから20年後、良い曲や絵画を見極める人工知能が誕生したとして、私は「専門家」として素直に受け入れられるでしょうか。果たして専門家は本当に人しか務まらないものでしょうか。

 もっとも究極vs至高のように、その道にも複数の専門家がいるからこそ価値観は多様になります。1つの人工知能を過信しても同じ価値観に染まるだけで面白くありません。大事なのは「私はあなたの意見には反対だが、あなたがそれを主張する権利は命を懸けて守る」ことなのかもしれません。

著者プロフィール:松本健太郎

株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。

著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org


編集部より:著者単行本発売のお知らせ

人工知能に仕事を“奪われる”、人工知能が“暴走する”、人工知能に自我が“芽生える”――そんなよくありがちな議論を切り口に、人工知能の現状を解説してきた連載「真説・人工知能に関する12の誤解」が、このたび、書籍「AIは人間の仕事を奪うのか? 〜人工知能を理解する7つの問題」として、C&R研究所から発売されました。

連載を再編集し、働き方、ビジネス、政府の役割、法律、倫理、教育、社会という7つの観点から、人工知能を取り巻く問題を理解できる構成に仕上げています。この本を読めば、人工知能の“今”が大体分かる――連載を読んでいた方も、読んでいなかった方も手に取っていただければ幸いです。本書の詳細はこちらから。

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