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人工知能開発は「儲けないと意味がない」 東大・松尾豊さんが見た“絶望と希望”これからのAIの話をしよう(日本編)(2/4 ページ)

» 2018年09月25日 08時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]

 企業から見ると、研究のアウトソーシング先にもなるはずです。本質的には、基礎研究は複数の会社がばらばらにやるよりも、まとめた方が効率が良い。異なる企業同士が協同で大学にアウトソーシングする可能性もあると思っています。

松尾さん インタビュアーの松本さんと松尾さん

松尾研の特徴は「企業へのリスペクト」

――大学と産業界の間には断絶があるのでしょうか。

 欧米に比べ、大学と産業界の連携は弱いと思います。根本的な問題は「日本の研究者はお金もうけの大変さを理解していない人が多いのではないか」ということです。人材の流動性が低いので、企業で働いた方も少ないし、ましてや起業したことがある人はほとんどいない。

 もうける方法を発明し、それをスケールさせているという点で起業家はすごいわけですし、世界的な大企業を作りあげた創業者、経営者は本当にすごいわけです。ところが、研究者の多くは、心の中でお金もうけをばかにしていて、賢い自分がちょっとやればそれくらい簡単にできると考えている人が実は多いと思っています。

 だから「どうすれば企業に貢献できるか」という発想が生まれてこない。企業の成長に役に立つことと、技術の転換期で企業の力になることがどれだけ重要かを、実感として理解していない。シリコンバレーでは大学の先生も起業し、苦労しているので、事業を大きくすることの大変さと大学の役割をよく分かっています。

 仮に僕の研究室が他の研究室と違う点を1つだけ挙げろと言われれば、1人で事業を大きくした起業家や、もうかる事業をスケールさせた世界的な企業に対して、大きな尊敬の念があることです。その役に立ちたいという思いが、研究室全体に根付いている。僕たちは企業に対して大きなリスペクトがあります。そして、最先端のAI技術がその役に立てるはずだと思っている。

 企業側も、そう思ってもらえたらうれしいじゃないですか。そうやっていろんな信頼関係ができていくのが大事で、大学と企業どちらかだけの問題ではありません。

――企業はもうける仕組みを作りつつ、基礎研究にもバランスよく取り組んでいくとよいのでしょうか。

 いや、基本的にはもうけることが大前提です。長期的にもうけるための選択肢の1つとして長期投資があります。もうけることが先にあって、それを持続させるために基礎研究があるといい、という順番です。

 企業がもうけて余裕ができると科学技術への投資ができる。戦後の日本も、そうした流れを経て結果的にノーベル賞を受賞する日本人も出てきましたよね。

人工知能で日本が活躍できる分野・領域

――企業がもうけることの大切さが良く分かりました。日本はどういった分野・領域なら人工知能でもうけられると思いますか。

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