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人工知能で「ヒット曲」難しい理由 ”良い音楽”は科学できるのかこれからのAIの話をしよう(音楽編)(3/5 ページ)

» 2018年11月08日 08時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]

 「例えば、この曲はAメロ、Bメロ、サビがあり、それを繰り返す、と指定すれば4分の曲は作れるでしょう。長い曲を作るには構造が必要になりますが、今のところ構造を自動生成するときの解がありません。テンプレートを作ってしまえば簡単ですが、『それって本当に自動作曲なの?』と議論になるでしょう

 人工知能が曲を作るには、ある程度人間の介入が必要です。どこまで人間の手を離れると、自動作曲と言えるのでしょうか。深山さんは、自動作曲は「品質と多様性のトレードオフ」だと言います。

 「音楽の品質を高めるためにはテンプレートを使えば良い。ですが、『このメロディーを1音だけ変えたい』というような個人ごとの要望には細かく対応できず、多様性には欠けます。どう多様性を担保するのかは試行錯誤ですね」

音楽 Orpheusでは、曲のジャンルやテンポ、コード進行などを設定できる(画像提供:深山さん)

「良い音楽」の定義とは 曲の評価は誰がする?

 自動作曲の難しさは、それだけではありません。品質と多様性のバランスだけでなく、聴き手の評価という観点も重要だと筆者は感じました。なぜなら音楽は嗜好の面もあり、人によって音の好き嫌いがあるからです。万人に好かれる「正解」のメロディーがないともいえます。

 言い換えると、この教師データさえ学習しておけば大丈夫、という機械学習の定石が自動作曲には通用しません。深山さんは繰り返し「自動作曲の評価の難しさ」を述べられましたが、確かに頭の痛い問題です。

 将棋、囲碁のような勝ち負けのルールがしっかり決まっているゲームは評価関数も作りやすいですが、音楽の場合、聴く側の主観が入るので評価も大変です。何をもって、良い音楽、悪い音楽と定義するのでしょうか。

 深山さんは「そこは責任を持って決めるしかない」と言います。「自動作曲システムは、10個前の音まで考慮して『この音はどうあるべきか』までは考えません。だから、これは無理、これはできる、というルール作りをしておくことが重要です。中には『それで音楽を作ったと言えるの?』と言う人もいますが、ルールを決めないと技術として議論できません」

 万人が良いと断言できる音楽がない中で、何をもって良いとするのか。それをひたすらロジカルに追求しようとしているのが、自動作曲の研究者の皆さんなのでしょうか。

 深山さんは「まさに、その通りです」と答え、「問題設定がかなりのウェイトを占めています。なかなか大変ですが、いろいろ試せるから面白いですよ。音楽が好きで、自分自身も音楽を作っているので、意外にこういうところが自動化できちゃうんじゃない? などと思いながら挑戦しています」と続けました。

 そうなると、見方を変えれば、品質や多様性など考えず「芸能人格付けチェック」のように100人中99人が「プロだ」と言えば、それはプロと言ってしまっていいのではないか。筆者の疑問に、深山さんは「良い音楽が何かを考える場合は、音楽が使われる場面、すなわちstageの観点で考えてください」と説きます。

 「実験室の中の皆が認めたらそれはプロと言えるのかは疑問です。例えば、自分の結婚式で使いたいなど、自分事で考えて本当に良い音楽に仕上がっているか考える必要があります。個人的には、私自身そのシステムを使いたくなるどうかで良い音楽かどうかを考えています」

 「学術的に、論文に書いたり研究者同士で議論したりするときは、共通のルールセットを設けます。研究者同士が密接に連携して、音楽をどうやって評価するか自体が1つの研究にもなりますね」

「音」と「音楽」の違い

 良い音楽とは何か、誰が音楽を評価するのか、というのは少し哲学的な問いにも思えます。似たような答えの出ない問いとして、「音と音楽は何が違うか」というものがあります。こちらについては、どうでしょうか。

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