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「月額0円」廃止 楽天モバイルを悩ませた“3つの誤算”(2/3 ページ)

» 2022年05月17日 11時30分 公開
[佐野正弘ITmedia]

1つ目の誤算「ネットワーク整備の遅れ」

 これまでの同社の動向を振り返ると、そこには3つの誤算があったと筆者は見る。1つ目の誤算は“ネットワーク整備の遅れ”だ。

 実は楽天モバイルが携帯電話会社としてサービスを開始したのは、本サービス開始より半年ほど前の2019年10月。なのだが、新規参入である同社は基地局整備に関するノウハウが不足しており、ネットワーク整備が大幅に遅れ総務省から何度も指導を受けるなど、満足にサービスを提供できる状況になかった。

 そこで同社は5000人に対象を絞り、サービスを無料で利用できる代わりにネットワーク改善のため意見を募る「無料サポータープログラム」という、ほぼ試験サービスというべき形でのスタートを余儀なくされたのである。

2019年10月のサービス開始当初、楽天モバイルはエリア整備が大幅に遅れていたため、5000人に利用者を絞った、試験サービスに近い「無料サポータープログラム」のみの提供となった

 その後2020年4月に楽天モバイルは本格サービスを開始したのだが、当時の人口カバー率は20%台で、多くのエリアを提携するKDDIのネットワークへのローミングで賄わざるを得ない状況だった。そこで楽天モバイルは料金的メリットを前面に打ち出して加入者を集める戦略を取ったのである。

 本格サービス開始当初に打ち出した料金プラン「Rakuten UN-LIMIT」は、月額3278円で楽天モバイル回線内であればデータ通信が使い放題と、当時としてはかなりお得な料金設定だった。だが同社はそれに加えて、300万人まで1年間、Rakuten UN-LIMITを無料で利用できるという大盤振る舞いのキャンペーンを実施したのである。

2020年4月の本格サービス開始時は、月額3278円でデータ通信使い放題の「Rakuten UN-LIMIT」を、300万名に1年間、無料で利用できるキャンペーンを実施していた

2つ目の誤算「政府主導の携帯料金引き下げ」

 一連の内容を見るに、楽天モバイルは無料キャンペーンでユーザーを増やすと同時にインフラ整備を加速させることで、本格サービス開始後の1年後にはRakuten UN-LIMITの料金でユーザーが満足できる環境が整うと踏んでいたとみられる。だがそこでもう1つ、“政府主導の携帯料金引き下げ”という誤算が起きることとなる。

 その契機となったのは、かねてより携帯料金引き下げに熱心だった菅義偉氏が2020年9月に内閣総理大臣に就任したこと。それ以降、菅前政権が政治的圧力をかけて携帯各社に料金を大幅に引き下げるよう迫り、結果としてNTTドコモがRakuten UN-LIMITと同じ料金(発表当時)で20GBの通信量が利用できるオンライン専用プラン「ahamo」を投入して楽天モバイル以上の評判を呼んだのである。

 その理由は、すでに全国津々浦々で利用できる携帯大手の充実したネットワークを、大容量かつ低価格で利用できるため。携帯電話は何よりネットワークにつながることが重視されるだけに、使い放題ではないとはいえ、エリア面での充実度が高い携帯大手が低価格かつ大容量の料金プランを投入したことは、ネットワークに弱みのある楽天モバイルを窮地に追い込んだのである。

NTTドコモが2021年3月より提供を開始したオンライン専用プラン「ahamo」は、当初Rakuten UN-LIMITと同じ料金で、楽天モバイルより広いエリアで大容量通信ができることが大きな評判を呼んだ

 とりわけ懸念されたのが、無料キャンペーンが終了するユーザーが出てくる2021年4月以降、楽天モバイルからahamoなどに乗り換えるユーザーが続出してしまう可能性である。そこで楽天モバイルが2021年、ユーザーを逃さないために打ち出した一手が、新しい料金プランのRakuten UN-LIMIT VIに、月額0円で利用できる仕組みを導入することだったわけだ。

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