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がん患者・家族へのインターネットによるサポートシステムITソリューションフロンティア:トピックス

» 2004年07月09日 00時00分 公開
[大嶋憲,ITmedia]

がん患者・家族に必要な精神的サポート

 1981年以来、日本人の死因として第1位にあげられているのが「がん」である。自分自身や家族・友人など、すべての人ががんと関わり合う時代となってきた。厚生労働省は2015年にはがん患者が530万人にのぼると予測しており、その家族を含めると1,500万人を超える数の人々がサポートを必要とする時代がやって来ることになる。

 医療技術の進歩により、がん患者の生存率が向上する一方、長い闘病生活のために患者とその家族が受けるストレスも大きい。がんは「身体の病」という側面だけでなく、病気から引き起こされるストレス、つまり「心の病」という側面も見逃してはならない。最近の精神神経免疫学によれば、人間の心の動きは身体に影響し、がん患者に心理的援助を行うことにより免疫力も向上することが知られている。患者の不安を取り除くことで、病気や治療に対する取り組みも変わるのである。

ジャパン・ウェルネスの活動

 2001年3月には、がん患者および家族に対する精神心理的サポートを提供することを目的に、NPO(非営利組織)ジャパン・ウェルネスが設立された。ジャパン・ウェルネスでは、会員(がん患者とその家族)に向けてサポートグループと呼ばれる会員どうしの話し合い(同じ悩みをもつ人たちの相談、情報交換などを行う)や、セカンドオピニオンと呼ばれる専門医との医療相談(患者が主治医以外の医師と治療法などについて相談、情報提供を求める)といった活動を行っている。

 現在、ジャパン・ウェルネスの活動は対面により実施されているため、対象者は拠点となる東京近郊に住む患者・家族に限定される。そこで、遠隔地に住む患者・家族もサポートを受けられるようにするため、ジャパン・ウェルネスではNRIの3D‐IESを用いて、インターネット上で患者・家族の精神的ケアを行う「3Dオンラインメディカルフォローアップ実証実験」を開始した。実験では、ジャパン・ウェルネスの医師、看護師などによる精神的サポートや、京都大学による心理分析、さらに明海大学による科学分析が行われている。

インターネットを利用した精神的サポート

 実証実験では、Webページ上での3次元表示を可能にする3D‐IESのWeb3D技術により、利用者は3次元仮想空間上に自分の代理となるキャラクター(アバターと呼ぶ)を参加させ、そのアバターを通して文字と画像による情報交換を行うことが可能になっている(図1参照)。アバターが3次元空間内を自由に動き回り、他の参加者のアバターと出会い、テキストチャットを利用して会話を行うのである。

図1 図1 サポートグループ画面

 また、参加者はアバターの身振りや仕草などの環境コンテキストを共有しながら双方向コミュニケーションによる対話が行える。さらに、多人数で同時にコミュニケーションができることや、距離的に離れている参加者の会話は聞こえないというように、実世界に近い感覚で会話ができる。これにより、臨場感あふれる3次元空間の中で、相手を視覚認識しながら、安心してコミュニケーションを図れるようになるのである。

 実証実験では、ビデオチャットソフトによるセカンドオピニオンも実施されている。これにより、患者が自分の病状を示す写真・資料を電子媒体で用意しておけば、遠隔地にいても医師から病気治療のアドバイスなどを受けることが可能になる(図2参照)。

図2 図2 セカンドオピニオン画面

心のケアを可能にするインターネット上のコミュニティ

 これまで教育システムとして活用されてきた3D‐IESは、ユーザーが自己の分身キャラクターを通じてコミュニケーションを行うという独自のヒューマンインタフェースをもっている。対面では話しにくいことでも、仮想的な分身キャラクターを通じてなら気軽に会話できるという点は、がん患者などへの精神的ケアのようなシステムにとって大きな利点であろう。

 インターネットの普及とITの進展は、ネットコミュニティという新たな文化を生み、そのなかで人間の心に対する新しい形の支援を行うことが可能になりつつある。

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