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マーケティングPDCAサイクルを実現するリコメンドソリューションCRMの新たな視点とソリューション(2/2 ページ)

» 2005年05月24日 00時00分 公開
[小齊平一貴,野村総合研究所]
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従来のリコメンドソリューションの方式と課題

 リコメンドソリューションは、お勧め商品を抽出するロジックの種類によって、大きく以下の3つの方式に分類できる。

(1)ルールベース方式

 あらかじめ判断ルール(If〜Thenの分岐パターン)を用意し、顧客の行動とマッチングさせることにより顧客を分類して、それぞれに最適な商品情報を提示する方式。たとえば、おむつを買う顧客は高い確率でビールを買うというデータがあった場合、おむつを買った顧客に対して、ビールの情報をあわせて提示するという方式である。

 これはすでに効果的な判断ルールが確立されており、その判断ルールを、Webサイトでダイレクトに展開したいという企業にとっては効果的である。しかし、商品や販売戦略の変化に合わせてルールを継続的にメンテナンスしていく必要があり、運用にかなりの負荷がかかるという課題がある。

(2)協調フィルタリング方式

 顧客の行動パターンから、それと類似する行動パターンをとる顧客群を想定し、集団の嗜好傾向から、リコメンドすべき情報を提供する方式。この方式では、判断ルールをあらかじめ設定する必要がないが、正確な嗜好傾向を割り出すためには、一定量以上の顧客情報、行動情報の存在が必要である。このため、中小規模のECサイトへの適用は困難で、また、購買行動が蓄積されていない新商品に対してはお勧め商品を提示できないという課題がある。

(3)プロファイルマッチング方式

 顧客に自分の興味や嗜好を入力してもらい、その情報に基づいて合致する情報を提供する方式。この方式は、必ずしも大量の顧客データを必要としないため、中小規模のEC サイトへの適用も可能である。ただし、顧客に情報入力の手間を強いるだけでなく、顧客の興味や嗜好が情報入力時から変化しても、それに対応することは難しく、次第にリコメンドの精度が低くなりかねないという課題がある。

 また、これら3つの方式に共通する短所として、リコメンドソリューションの効果を正確に把握することが難しいという点をあげることができる。すなわち、リコメンドソリューション導入後、売上が向上したとしても、それがリコメンドソリューション導入による成果なのか、その他の販促活動の成果なのか、数値的に検証することは難しい。このため、選択したリコメンドソリューションが適切であったかどうかが判断できず、次のマーケティング戦略を検討する材料として活かしづらい。

自動リコメンドソリューション

 既存のロジックに依存する(1)のルールベース方式以外の解決方法として、大量の顧客データを必要としない(3)のプロファイルマッチング方式の、情報入力の手間などを自動化して省力化するというものが、最も実効性の高い方法であると考えられる。

 野村総合研究所(以後、NRI)では、こうした考え方をもとに、従来の方式を発展させた自動リコメンドソリューションを開発した。以下、その概要について説明する(参照記事)。

 これは、テキストマイニング(テキスト内の単語の関係性からデータ解析を行う手法)を用いて、商品プロファイルを商品の説明文から自動的に生成するとともに、顧客プロファイルを顧客の購買情報、参照情報からリアルタイムに生成、更新する。そして両者をマッチングすることにより、お勧め商品を提示する。

 従来のプロファイルマッチング方式と異なり、顧客に情報入力を強いることがなく、顧客の興味や嗜好の変化に対応したリコメンドが行えるだけでなく、運用の手間も大幅に削減することができる。

 また、NRIの自動リコメンドエンジンは、仮説検証機能を内蔵している。これを用いれば、リコメンドソリューション導入の効果を数値的に把握することができる。具体的には、顧客をリコメンドソリューション適用群と非適用群にランダムに分割し、各群に指定した条件で、Web画面やメールによるリコメンド商品の提示などを行い、各群のアクセス数や売上を比較して効果を検証することができるようになっている。

マーケティングPDCAサイクルの確立を目指して

 NRIが提供する仮説検証機能は、リコメンドソリューションの効果測定だけのものではない。その他のマーケティング上の仮説や手法(たとえば顧客の購買頻度に応じて表示するリコメンド商品の数や場所を変更するなど)の検証にも使用することができる。

 従来の各種リコメンド方式には、このような仮説検証機能が存在していなかった。このため、仮説・手法の検討(Plan)とWebやメールなどへの実装(Do)を繰り返すのみで、新たなマーケティング活動が有効であるかどうかを数値的に分析・評価することができなかった。

 しかし、マーケティング活動は、PDCAサイクルを継続的に運用し、最適な戦略を実証的に探求し続けることが望ましいことは言うまでもない(図2 参照)。

図2

 NRIの自動リコメンドソリューションでは、仮説検証機能により、新しいマーケティング戦略の分析・評価(Check)が可能となり、実証的な裏付けをとった上で本番サービスへの採用(Action)を行うことができる。

 こうした継続的なマーケティング活動の仕組みを確立することが、さらなる売上増大と顧客満足度向上につながっていくはずである。

リコメンドソリューションの今後

 今後、リコメンドソリューションは、低価格化と複雑化が進むと思われる。

 すなわち、ASP(アプリケーションサービスプロバイダー)などによって中小規模サイトへも広く普及していくであろうし、大規模サイトでは、複数のリコメンドソリューション方式を顧客のステージや適用箇所に応じて使い分け、効果を高めるような取り組みがみられるようになると考えられる。

 しかし、リコメンドソリューションの導入は、あくまでもOne to Oneマーケティング実現の第一歩に過ぎない。その後、いかに継続的に最適なマーケティング戦略を探っていけるかが、今後のECサイトの成否を分けることになる。そのためにも、まずはマーケティングPDCAサイクルを早急に確立することが重要となるであろう。

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