戦後80年、カラーでよみがえる“戦時中の動物たち”の姿とは? AIと人力で戦争写真を着彩、第一人者が語る思い(1/4 ページ)
「動物が戦争に巻き込まれていた。それを知ってほしい」――東京大学大学院情報学環でデジタルアーカイブなどを研究する渡邉英徳教授は、7月に出版した写真集「動物たちがみた戦争」(光文社)の狙いの一つを、このように語る。
渡邉教授は研究の一環として、主に第二次世界大戦にまつわるモノクロ写真を、AI技術や戦争体験者との対話、当時の資料などを活用してカラー化する活動「記憶の解凍」に取り組んでいる。2020年には、厳選したカラー化写真をまとめた写真集「AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争」(光文社)を、当時東京大学に在学していた庭田杏珠さんとともに出版した。
ITmedia NEWSは21年、渡邉教授に記憶の解凍に関して取材をしている。渡邉教授が、当時Twitter(現X)に投稿した長崎原爆のきのこ雲のモノクロ写真をカラー化した画像が大きな反響を呼び、AIと手作業を組み合わせたカラー化が注目を集めた。それから4年がたった今、AI技術とカラー化の関係に大きな変化があったという。
25年7月に新しく出版した「動物たちがみた戦争」では、毎日新聞社が所蔵する約6万枚の戦時中の写真「毎日戦中写真」の中から、馬や犬、鳩などさまざまな動物を捉えた写真に注目。渡邉教授がカラー化を手掛けた写真を、モノクロ写真と合わせて200枚ほど掲載し、京都大学でアジア史を研究する貴志俊彦教授と、毎日新聞の記者で慶應義塾大学の非常勤講師を務める中島みゆき氏とともに刊行した。
戦後80年の節目となる2025年、なぜ、動物が写る戦時中の写真をまとめた写真集を刊行したのか。またAI技術が急速に進歩するなか、どのようにAIを活用し、モノクロ写真をカラー化したのか。その狙いを渡邉教授に聞いた。
カラー化で際立つ「わざとらしさ」 動物をテーマにした理由
なぜ新著では、動物にテーマを絞ったのか。同書には、馬や犬、鳩に加え、象、ラクダ、ウサギ、サルなど、戦争との関連があまり知られていない動物が写る写真も多く掲載している。
渡邉教授は「動物が好きな人はたくさんいる。また、動物が戦争に巻き込まれていること自体を知らない人もいる」として、戦時中の動物の扱いを伝えるというストレートなコンセプトがあったと語る。
一方で「動物たちがみた戦争」というタイトルには別の理由もあるとする。「戦時中のマスメディアは、プロパガンダを発信する場所でもあった」と渡邉教授。特に動物にまつわる写真では「動物たちが戦争のために頑張っている」という演出を施し、「動物が頑張っているんだから、私たちも頑張らなければ」といったメッセージを伝えるものも多くあったという。
1つの例として渡邉教授は、死んだ馬を弔った1枚の写真を挙げる。これは同書に掲載されているものだが、写真には馬の名前が記された墓標を日本軍の兵士たちが取り囲んで敬礼する姿が写されており、しかも兵士たちは墓標の奥に並んでいる。渡邉教授は「なぜ墓標の後ろから敬礼しているのか」と疑問を投げかけ、「1枚に収めなきゃいけない」「馬の名前も見えなきゃいけない」という新聞側の事情があったと説明する。
渡邉教授によると、モノクロ写真のカラー化は、こうした“違和感”を見つけやすくするという。「写真をカラー化すると、(演出の)わざとらしさが目立つ。元のモノクロだと見逃してしまうような写真だが、カラー化すると、急にあざとさが引き立つ」(渡邉教授)
今回の写真集では、カラー化により、写真の演出を際立たせながら、動物が戦争に巻き込まれていった様子を提示。同時に、人間にしか通用しない演出が入った写真を、動物たちの視線から捉え直してもらうことで、戦争の無益さや不条理さを伝えたいという思いから「動物たちがみた戦争」をタイトルに採用した。
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