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世界にあふれ出す戦争 ITは武力にどう対抗できるのか小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)

» 2022年03月10日 11時08分 公開
[小寺信良ITmedia]

 冬季オリンピック終了を待った格好で2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、3月10日現在もまだ戦闘が続いており、停戦の目処は立っていない。

photo ウクライナ政府のWebトップページ

 この戦争でロシア側にもウクライナ側にも、当事国以外で自軍を派遣した国や組織はまだないが、もしどこかが参戦したらそれはもう明確に東西の争いであり、世界を二分する「第三次世界大戦」ということになるだろう。だが、事はそう単純ではなかった。

 もちろん最前線は暴力対暴力のぶつかり合いで死者が出ていることには変わりないが、戦火はITへも飛び火し、ロシアの大統領府やメディアに対して大規模なサイバー攻撃が仕掛けられている。戦場は、ネット空間にも拡大した。

 ネットを通じて世界にあふれ出した戦争は、多くの国と地域を巻き込むに至っている。直接的な参戦でない限りは、制裁か後方支援かのどちらかになる。ここでは国単位ではなく、企業や団体・個人がどう動いたのかを追いかけてみたい。

 なお、今回この記事を執筆するために多くの報道にあたったが、情報ルートによってはディレイがあり、また裏取りや翻訳に時間がかかっているケースもある。したがって報じられた時系列で見ると、前後が逆になっていることがあるようだ。またショッキングな報道ほど、フェイクニュースや当事国のプロパガンダである可能性が高く、正しい情報だと分かるまで時間がかかっている。よって今回の記事は、あまり時系列にこだわらずに執筆している点をご留意いただきたい。

拡大を続ける経済制裁

 武力に対して経済制裁で対抗するという方法論は、開戦前には威嚇としての効力があるものの、実際に開戦してしまってからは、思ったような効果が得られていないように見える。

 例えばロシアやプーチン氏個人の資産凍結はもちろん、国際間の銀行取り引きの停止、各種クレジットカードの取引停止など次々と施策が打ち出されている。

 IT企業でも、制裁へ向けての動きがある。Appleはロシアでの製品販売およびApple PayやApple Mapsなどのサービスを停止した。Googleもロシア政府系メディアの広告を排除した。Facebookもロシア政府系メディアの情報を制限している。Twitterはロシア政府関連メディアのリンクを含んだツイートには警告文を追加している

 だが、それらが真っ先に痛めつけるのは、ロシア国民の生活だ。

 これが普通の民主主義国家なら、国民が蜂起して政府ふざけんなよという話になるが、2000年から今まで続く独裁政権下のロシアでは、反戦デモも即時弾圧されており、ロシア国内のリベラル系ラジオも放送とサイトを停止、解散するなど、かつての社会主義時代とあまり変わらないような情報統制が行なわれている。

 産業界として意外に大きく動いているのが、自動車業界だ。筆者が把握する限り、海外ではゼネラル・モーターズ、ボルボ、ダイムラートラックホールディングス、フォルクスワーゲングループ、メルセデス・ベンツが、日本ではトヨタ自動車、日産自動車、マツダ、ホンダ、スズキがロシアでの操業停止や輸出停止など、何らかの形で取り引きを停止している。

 問題は、これらの制裁をいつまで続けるのが妥当なのか、ということではないだろうか。限りなく戦火が拡大すればもちろんそれどころではなくずっと止まったままだろうが、戦争はいつの時点で、どのような形で終結するのか。それによっていつまでやるのかの話も違ってくるのだろうが、経済制裁は受ける側だけでなく制裁する側にも損が出る。結局根比べで負けた方が降参せざるを得なくなるといった、情けないことにならないことを願う。

 その一方で、的外れな経済制裁も行なわれているようだ。米国ではウォッカのボイコット運動が展開されているが、実は米国内で販売されているウォッカはそのほとんどがロシア産ではなく、中には米国産のものもあるという。まあ感情的にロシア文化を排除していくという大きな流れではあるのかもしれないが、被害を受けている企業は気の毒である。

 これに対抗する格好で中国内のロシア系オンラインショップでは、チョコレートや飲料水、ウォッカなどが売り切れ、「人民の購買力を見くびるな」などといわれている。いわゆる「買い支え」が起こっているわけだが、これもこれでなんだか的外れのように見える。

 中国はこれまでロシア寄りとされてきたが、国連総会の「ロシア非難決議」に反対する5カ国に中国の名前はない

 加えて中国系アジアインフラ投資銀行「AIIB」では、ロシアとベラルーシとの全ての取引を停止した。ロシアへの一方的な経済制裁を支持しないが、かといって今回の侵攻を支持しているわけではないという、中立の姿勢を通している。

 今後国際社会がロシアをどのように扱うか、ロシア経済がどのようになるかを見極めることで、巻き込まれての共倒れを避ける狙いがあるようだ。

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