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世界にあふれ出す戦争 ITは武力にどう対抗できるのか小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)

» 2022年03月10日 11時08分 公開
[小寺信良ITmedia]
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ITを中心に拡がる支援

 ロシアに対する制裁とは逆に、ウクライナへの支援も活発化している。ネットの力が存分に発揮された案件としては、ウクライナ副首相からイーロン・マスク氏に対する呼び掛けがある。Teslaの共同創設者として知られ、宇宙開発企業 「SpaceX」の創業者である同氏は、呼び掛けから約10時間後には衛星ブロードバンド「Starlink」をウクライナに移動させ、送受信ターミナルも陸路で送った。

 日本のソフトバンクは、ウクライナへ渡航中のユーザーに対し、データ通信料を無償化した。外務省によれば、ウクライナへ渡航中の日本人は2月末の時点で約120人であるという。

 またウクライナから避難する人達に対し、ハンガリー赤十字は食料や水、衛生用品などとともに、データ量60GB入りのSIMカードを配布している

 通信インフラの確保は、残された市民の安否確認や、自分たちの安全確保の面で重要である。知らない土地で移動するには地図や路線図が必要だし、表示標識を翻訳するカメラアプリも必要だし、通訳ソフトも必要だ。現代は「情報的に死なない」ことが、肉体的に死なないことへの足掛かりとなる。

 情報提供という点では、NHKが国際放送「NHKワールド JAPAN」のネット放送にウクライナ語の字幕提供を始めた。ニュースではもちろん戦況を報道する。当事国以外が報道する内容もまた、どこで何が起こっているかの把握に役立つだろう。

 こうしたIT支援は、今すぐに効力を発揮するという強みがある。一方経済支援は効力を発揮するまで時間がかかるが、今傷ついている人達、そしていつか戦争が終わった日のための後方支援としては有効だ。

 日本国内でも、ウクライナ大使館が開設した支援口座の情報がTwitterやFacebookを通じて広がり、すでに6万人以上が寄付し、合計20億円近くが集まっている。著名YouTuberのヒカル氏も個人で1000万円の寄付を申し出るなど、個人でも戦火に追われた人々の支援が動き始めている。

 一方で、ネット上での資金調達も即効性の高い方法として有効のようだ。ウクライナ政府では、すでに仮想通貨のイーサリアムとビットコインで、約46億円以上の寄付を受け取っている。加えてウクライナ軍を支援する非代替性トークンNFT(Non-Fungible Token)を発行し、約7億8000万円を調達した

 NFTは2021年末に坂本龍一氏が「Merry Christmas Mr. Lawrence」のメロディーを1音ずつ分割して販売したことで、日本でも一気に知られることになった技術である。

 これまで国が資金を得る方法として、寄付や国債発行といった方法はあったが、NFTを使った例はまだなかったように思う。

 2010年から勃発した「アラブの春」以降、紛争が情報戦化して久しいが、情報はツールであるがゆえに、人を助けもするが傷つけもする。できることならば人を助ける側でいたいと、多くの人が願っていることと思うし、それがネットの力であることを信じていたい。

photo ウクライナ政府サイトに置かれた、ウクライナを支持する国の地図
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