AIエージェントは「増やせば賢くなる」のか Metaとハーバード大の研究が示す“分業の条件”(1/5 ページ)
新規事業の提案書をまとめるとき、1人の担当者に市場動向を調べさせ、競合製品を比較させ、採算まで試算させる会社は少ないだろう。多くの職場では、調査担当、分析担当、資料作成担当というように仕事を分ける。仕事が増えれば人を増やし、専門性が必要になれば担当を分ける。
同じ仕事をAIに任せるとしたら、どうだろうか。全てを1体に頼むより、人間の職場と同じように、調査、分析、資料作成をそれぞれ別のAIエージェントに受け持たせた方が、速く良い結果が得られそうに思える。人間の組織で通用してきた分業の発想を、AIにも当てはめたくなるのは自然だろう。
実際、業界はその方向へ動いている。米Gartnerは2025年10月に発表した「2026年の戦略的テクノロジートレンド」で、複数のAIエージェントが協調して複雑な目標に取り組む「マルチエージェントシステム」をトップトレンドの一つに挙げた。米OpenAIや米Anthropicの開発基盤には、エージェントが別のエージェントへ仕事を引き継いだり、補助のエージェントを呼び出したりする機能が標準で備わっている。
米Googleも26年10月8日の年次イベント「Gemini at Work 2026」で、仕事に応じて一時的な補助エージェントの「顔ぶれ」を動的に編成し、並列と逐次の手順を何時間も何日も実行し続ける「Gemini agent」を発表した。
同社は、顧客企業の事例として、シンガポールのDBS銀行が法人与信の審査資料作成に70〜80体の専門エージェントを所定の手順で連結して使っていることや、SOMPOが3万4000人の従業員に対して1万体超のカスタムエージェントを展開したことも紹介している。構成はさまざまだが、企業が動かすエージェントの数が、数十体から数万体の単位に入りつつあることは確かだ。
AI企業が語る「分業の限界」
ただし、分業を売り込む当事者ほど、その限界も率直に語っている。Anthropicは25年6月の技術解説で、同社の調査機能が複数の補助エージェントに探索を振り分けて効果を上げた一方、トークン(AIが文章を処理する際の単位で、利用料金を計算する基準にもなる)の消費量が通常のチャットの約15倍になったと認めている。
OpenAIは開発者向けの公式ガイドで「できる限り1体のエージェントから始めよ」と勧め、早い段階での分割は改善をもたらさないまま管理の手間だけを増やす、と注意している。AIコーディング企業の米Cognitionも25年6月に「Don't Build Multi-Agents」(マルチエージェントを作るな)と題した記事を公開し、互いの文脈を共有しない並列のエージェントは矛盾した判断を重ねる、と警告した。
つまり、マルチエージェントを巡る議論は、導入の是非という単純な対立ではない。どのような仕事を分担させ、どの程度の計算資源を使い、情報をどう共有するかによって、得られる効果が変わるという問題なのである。
Metaやハーバードなどが研究
この「情報をどう共有するか」に正面から取り組んだ研究が、26年10月12日に公開された。米Metaの研究部門FAIRと米ハーバード大学などの研究者による論文「Scaling Multi-Agent Intelligence with Substrate-Centric Coordination」は、複数のAIエージェントの性能が数に比例して伸びない原因を3つに整理し、それらに対処する「ScaleMAS」という仕組みを提案した。
ソフトウェア修正の課題では、4体のエージェントで構成されたScaleMASが、8体の独立したエージェントと同じ成績を半分近いトークン数で達成した。文書の矛盾を検出する課題では128体まで成績が伸び続けた一方、数学の定理証明では16体程度で改善が頭打ちになった。仕事の内容によって、数を増やす効果が異なることも示されたのである。
本稿では、この論文を手掛かりに、AIの分業が力を発揮する条件を整理した上で、企業が導入前に確かめておくべき点を考えてみたい。
結論を先に述べておくと、この研究が示しているのは「AIを増やせば賢くなる」ということでも、「分業はやめておけ」ということでもない。同じ数のAIでも、情報を受け渡す仕組みを変えれば成績と計算量が変わり、その効果は仕事の内容によって異なる、ということだ。
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小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
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