AIエージェントは「増やせば賢くなる」のか Metaとハーバード大の研究が示す“分業の条件”(3/5 ページ)

新手法「ScaleMAS」とは

 冒頭の論文は、こうした伸び悩みの原因を3つに整理している。参加するエージェントが増えるほど各自が読む量が増える「読む負担」、質の分からない成果が混ざって有用な情報が薄まる「希釈」、そして一部のエージェントが止まると全体が崩れる「もろさ」だ。

ScaleMASの概要

 研究者らは、その根本原因を、協調の仕組みをエージェント自身に組み込む「エージェント中心」の設計に求めた。決まった手順をたどる方式、中央の調整役を置く方式、エージェント同士が直接やりとりする方式は、いずれも「誰が誰に何を送るか」をエージェント側に書き込んでいる。

 これに対してScaleMASは、協調の仕組みをエージェントではなく、全員が読み書きする共通の「基盤」(substrate、サブストレート)の側に置く。各エージェントは固定の役割を持たず、全員が同じ指示の下で、互いの完了を待たずに非同期で動く。他のエージェントに直接話しかけることも、仕事を割り振ることもない。

 できるのは、共通のデータストアに対する3つの操作だけだ。完了した作業を「投稿」すること、必要な情報を「検索」すること、そして検索結果や参照先が指す特定の投稿を「参照」することである。

「検索順位を決める仕組み」に着想

 ここで重要なのは、投稿の形式と検索の順位付けである。各投稿には、何をしたか(同じ仕事をしようとする者が検索するであろう言葉で書く)、何ができたか、なぜそうしたかに加え、何を土台にしたかという参照先を付けられる。

 参照先は、先行する投稿か、調べた元資料のどちらかで、付けるかどうかは任意だが、付ける場合には、その参照が何に寄与したかを理由の中で述べなければ投稿が受け付けられない。投稿は追記のみで編集も削除もできないため、参照先は常に書かれた時点の内容を指す。

 検索の順位付けには、文章としての関連性を測る定番の手法「BM25」の得点に、その投稿が他の投稿からどれだけ引用されたかを表す独自の重みを足し合わせる。重みは引用されるたびに増え、時間とともに減衰する。

 論文によれば、この引用の重みは、Webの検索エンジンが採用してきた「PageRank」(リンクされる数と質でWebページの重要度を測る考え方)に着想を得たものだ。ただし、PageRankそのものを使っているわけではなく、エージェントが作業中に書いた引用関係をそのまま重みに変える簡素な仕組みである。

 検索と参照は、1回につき最大8件(論文ではk件と表記)しか返さない。つまり、エージェントの数がいくら増え、データストアがどれだけ大きくなっても、1回の読み取りで大量の報告を処理する必要はない。

 ただし、検索の回数まで一定になるわけではない。エージェントが読み取る情報の総量は読む回数に依存し、その回数はエージェント自身が決めるという。「読む負担のわな」を完全に解消するのではなく、1回の読み取りに上限を設けることで、群れの大きさから切り離す仕組みだと理解するべきだろう。

従来方式との違い

 従来の方式と比べると、違いがはっきりする。全員が報告を共有する方式では、読む量が群れの大きさに比例して増える。中央管理型では、負担が管理役に集中する。

 共通の文脈を全員が読む「ブラックボード型」(黒板のように共有された場所に全員が書き込む方式)も以前から存在するが、論文によれば、この方式は「もろさ」は緩和しても、共有される文脈が群れの大きさに比例して膨らむため、読む負担と希釈は解決しない。共有フォルダを用意しただけでは、ファイルが増えるほど探すのが難しくなり、どれが信頼できるかも分からない。

 一方、ScaleMASの特徴は、共有の場所そのものではなく、保存された情報を検索し、引用関係をたどって選別する仕組みにある。

従来方式とScaleMASの違い

 企業の調査業務に置き換えてみよう。従来型の分業では、あらかじめ「A社担当」「B社担当」を決め、各担当が報告を上げる。ScaleMAS型では、担当を決めない。各AIが必要と判断した調査を行い、その成果を条件(対象地域、契約期間、確認日、出典)とともに共通の場所へ残す。他のAIは着手前に既存の成果を検索し、確認済みの範囲を利用して未調査の部分を進める。

 これは「報告を回覧する」方式から「資料を検索する」方式への転換といえる。なお、これは論文の仕組みを企業の調査業務に当てはめた説明例であり、実際に業務を実験で検証したわけではない。

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