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AIで原子を自在に操る、次世代の量子コンピュータ向け新技術 中国の研究者らが開発Innovative Tech(AI+)

» 2025年01月22日 12時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech(AI+):

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高いAI分野の科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

X: @shiropen2

 中国科学技術大学などに所属する研究者らが発表した論文「AI-Enabled Rapid Assembly of Thousands of Defect-Free Neutral Atom Arrays with Constant-time-overhead」は、AIを活用して原子を思い通りの形に配置する新技術を報告した研究である。この技術は、将来の量子コンピュータの基礎となる可能性を示している。

ランダムに配置した原子を目標の配列に移動させるため、AIを用いて最適な移動経路を計算し、空間光変調器で原子を段階的に動かす過程を示している図

 量子コンピュータの実用化に向けては、制御可能な量子ビットの数を増やすことが重要な課題となっている。特に、中性原子を用いた量子コンピュータでは、各原子を正確な位置に配置することが不可欠である。

 研究チームは、AIを用いて2024個の原子を精密なグリッドに配置することに成功した。この技術では、これだけの数の原子を、わずか60ミリ秒という短い時間で正確に並べることができる。

 従来の技術では、音響光学偏向器という装置を使って原子を1つずつ、または1列ずつ移動させていた。そのため、原子の数が増えれば増えるほど時間がかかってしまう問題があった。また、全ての原子を一度に動かそうとした方法もあったが、原子が失われやすく計算速度も遅かったため、数十個程度の原子しか扱えなかった。

 新しい技術のポイントは、「光ピンセット」と呼ばれる光で原子を捕まえる装置と、空間光変調器(SLM)、そしてAIを組み合わせた点にある。まず、ランダムに捕まえた原子を目的の位置まで動かすための最適な経路を特殊な計算方法で求める。

AIモデルと空間光変調器を用いて、レーザー光で捕捉した原子を並列的に移動させる実験装置の概略図

 次に、計算した経路を約20の小さな段階に分割する。これは、原子を一度に大きく動かすと失われてしまう可能性があるためである。各段階では、AIが原子を動かすための光のパターン(ホログラム)を生成する。このAIは、原子の位置を20nm(1nm=10億分の1m)という高い精度で制御できる。

 研究チームは、この技術を使って45×45の2次元グリッドに2024個の原子を配置することに成功した。これは現在知られている中で最大の欠陥のない原子の配列である。研究結果によると、この手法での処理時間は1000から1万原子の範囲で一定(約60ミリ秒)を維持することを示している。

 さらに、3層からなる立方体構造や「USTC」という文字を形作る2次元パターンなど、複雑な形も実現した。配置の精度も非常に高く、1回の操作で99.0%、2回の操作で99.6%という高い成功率を達成している。

原子の配列例

Source and Image Credits: Lin, Rui, et al. “AI-Enabled Rapid Assembly of Thousands of Defect-Free Neutral Atom Arrays with Constant-time-overhead.” arXiv preprint arXiv:2412.14647(2024).



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