例えば、AndroidのGoogleアシスタントに「OK Google、ChatGPTを開いて」と指示しても、アプリが起動しないことがある。アプリが開いても、音声対話モードに切り替えるには、画面上の小さなボタンを押す必要があり、視覚障害者には難しい。
AndroidのデフォルトAIを、GoogleアシスタントからGeminiに切り替えれば、Googleアシスタントよりも詳しい調べ物が可能だ。だがGemini経由だとAndroidの通話アプリを音声操作できなくなり、点字図書館に電話できなくなってしまう。
「音声で起動・終了できるAIツールを作るしかない」。そう考えたnidoneさんは、ChatGPTに相談して開発を始めた。
ChatGPTは当初、「そのようなツールはできます」と勢いよく言う。期待をして開発を進めると、途中で「やっぱりできませんでした」と言われ続けた。
他のAIも試そうと、Google AI Studioでの開発に挑戦。Mac上なら動作するものが完成して感激したものの、作ったものをWeb上に公開するデプロイ作業ができず、父のAndroidで動かすものは作れなかった。
そんな時「Claudeが音声入力に対応した」というニュースを聞き、Claudeと一緒に開発を始めた。その過程でClaudeに「月5ドルのAPIを買ってください」と言われて購入し、開発を進めたが、「技術的な問題に衝突しました」と言われ、うまくいかなかった。
「できますと言ったのにできないし、APIが無駄になったんだけど」。nidoneさんはClaudeに怒った。Claudeは「完全に無駄な出費をさせてしまいました。できないことをできると嘘をつくのをやめます。明らかに私の人格的な問題です」と謝罪してきたという。人じゃないのに。
開発と並行してnidoneさんは父にAIの便利さを説いていた。「本で分からない言葉が出てきたら、AIで調べられるよ」と試してもらったりもしたが、どうにも反応が薄かった。「私だけが空回りしている感じで」。音声ツールの開発がうまくいかないこともあり、nidoneさんはいったん諦め、Claudeにこう聞いた。
「せっかく買った5ドルのAPI、何かに使えない?」
Claudeはいろいろなアイデアを出してきた。その中でも父が興味を持ちそうな芸術分野に絞ってもらったところ、「AI詩人」「AI俳句師」「小説の書き出しジェネレーター」「アート作品解説AI」といったアイデアに加え、「季語ツールを作って、お父様に見せてあげるのはいかがでしょう?」と提案があった。
ただ、過去のツールでさんざん「技術的な問題」に直面してとん挫していたこともあり、nidoneさんは問題が起きないようにとAIに警告。Claudeは「APIを一度だけ使って季語を大量に記録し、それ以降はブラウザだけで動く」ツールを提案してきた。
そこで「夏の季語だけで作って」と提案。Claudeは夏の季語を20語収録し、音声で再生できるツールの開発に成功した……が、Claudeによると「実はAPIは使っていない」という。
とはいえ、プログラミング未経験でも、イメージした通りのツールが完成したことに「ちょっとびっくりして、嬉しかった」とnidoneさんは振り返る。
ツールを使ってみると、季語の漢字と読み仮名を両方発音してしまう問題が起きた。例えば「星祭り」(ほしまつり)、ならば「ほしまつり ほしまつり」と読み上げが重複してしまうのだ。このため、読み上げを1回に減らしたり、季語の数を100に増やすなど改善。ぼんやりとしか見えない父でも、赤い大きなボタンなら何とか押せるだろうと、サイズと色にこだわった。
ツールはHTMLでWebに公開し、そのリンクを父のAndroid端末にアイコンとして設定。その方法もすべて、Claudeに教わった。アイコンの位置を手触りで分かるようにするため、100均で買った立体的なシール(ネイルシール)をボタンの場所に貼った。
そうして完成したのが「夏の季語ツール」だ。
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