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災害時のTV放送、頼りになるのはどれか(2/2 ページ)

» 2004年07月29日 16時16分 公開
[西正,ITmedia]
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 震災発生直後には、ほとんど全国的に災害放送が続けられることになるだろうが、阪神・淡路大震災の時の例からすると、震災から3週間ぐらいは東京ローカルは災害放送を続けるにしても、それ以外の地域では順次エンターテインメント放送を再開せざるを得なくなる。東京局各社はそうした事態に備えて、常に非常時の編成表が作られてある。

 もちろん、東京局が被災して放送が不能になった際には、関西準キー局が、その役割を担うことになるのだが、そもそものソフト自体は東京局が保有しているケースが大半のため、関東周辺の各県のどこかに、必ず代替し得るような発信拠点を用意しており、日々の放送予定のソフトのビデオを、その発信拠点に持っていくといった対応をしている。

 放送局としての歴史の長い東京の地上波キー局では、東京局が被災した際の状況を想定して、平時からそうした準備を周到に行っているのである。東京局に代替する発信拠点から、全国向けに情報を出すことにより、マイクロ回線が東京を迂回して、全国各地に電波を送り届けることになる。

 そういう意味では、衛星に向けたアップリンク施設を東京にしか持たないモバイル放送と比べて、この点ではワンセグ・モバイルの方に一日の長があることは間違いなかろう。まさにテレビ放送50年を支えてきた地上波の、目には見えないところでの用意周到さがいざというとき、モノを言うのである。

 ただ、前述したように、モバイル放送側には、地上波では届かない場所にも情報を送ることができるという特徴があるため、今後の展開については大いに期待し得る点は多い。

 現段階では、防災メディアとして、モバイル放送サービスが最初からオールマイティであるとは言えない。ただ、小型の端末で屋外でも個人向けに直接、衛星放送波により情報提供できる新たなメディアができたことでもあり、それを活用しない手はないことは確かだ。地上波のワンセグ・モバイルは県域をベースとした放送になるし、モバイル放送は全国一波である。両立することは可能であり、補完関係にあると言える。

 また、モバイル放送の放送センターのある建屋は、非常に耐震性の高いビルとして作られている。もちろん、将来的には、防災メディアとしての位置付けをさらに高めるべく、第2放送センターを北海道などに設置するといった話も出てくるのではないだろうか。その意味では、これからスタートするメディアと50年の歴史を持つメディアを単純に比較したのでは、モバイル放送に酷であり、また新たなメディアの誕生の芽を摘み取ってしまうことになりかねない。

 いずれにせよ、災害放送について考える際には、地上波局のように平時から、放送局側での周到な対策が行われている点については知っておくべきだろう。それを踏まえて、各メディアの長所を寄せ集めていくことが、まさに「いざという時にメディアを生かす」ということにつながっていくのではないだろうか。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、潟IフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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