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コラム
» 2006年08月11日 08時50分 UPDATE

【連載第3回】ネットベンチャー3.0:おせっかいなCGMと、フランチャイズが結ぶロングテール (1/3)

佐々木俊尚氏が日本のベンチャー企業が実践するWeb2.0ビジネス最前線を描く連載企画。地域ポータルサイトを立ち上げた神戸の中古車販売店が、IT化の遅れた地方の中小企業をWeb2.0の世界に引っ張り出すためにとった方策とは。

[佐々木俊尚,ITmedia]

前回より続く

リアルより強いネットの自浄作用

 集合知とコミュニティー、コンテキストデータベースを三本柱にして企業のマーケティング支援ビジネス「DMES(Digital Marketing Engineering Service)」をスタートさせたクインランド。社長の吉村一哉さんがすぐに気づいたのは、こんなことだった。

 「集合知の世界では、商品力こそがすべてだ」

 ウェブ上にコミュニティーを作り上げ、そこに専門家やユーザー、企業の声を集約していく。そうなると、商品力がなかったり、どこかにウィークポイントを持っているような企業は、掲示板上でユーザーたちによって徹底的に批判されてしまう。企業規模は関係ない。大企業でも批判されるところがあれば、逆に中小企業であっても、オンリーワンの商品を持っているところはユーザーたちから絶大な支持を得ることができた。

 社長の吉村さんはこの時、「消費者から信頼されていない企業は、ネットでは長くは生き残れない。自然浄化作用がネットは強い」と気づいた。いったんはユーザーの支持を得ることができても、すぐに脱落してしまう企業もある。たとえばあるベンチャー企業は、社員数わずか数人ながら、若い女性向けに企画したランジェリーでヒットを飛ばし、一躍人気サイトになった。だがしょせんは単発ヒットだから、賞味期限が来たら人気ががたんと落ちてしまい、コミュニティーには批判的な言葉があふれることになる。人気商品を継続的にリリースしていける企画の持続力も重要なのだ。そのあたりはやはり、人材を豊富に抱えて長い期間にわたって商品を企画し続けてきた老舗の企業が一枚上だったりした。

 商品力を持ち、さらに商品の多様性(バラエティー)も保持しつつ、その上できちんとユーザーの声に応えていけるような企業でなければ、集合知ビジネスには対応できない――吉村さんは、当たり前といえば当たり前であるそんな結論に達したのである。

 だからクインランドはありとあらゆる企業にDMESを売り込んだのだが、失敗ケースも少なからずあった。商品力が乏しい企業だけではない。たとえば家賃30万円超の高級賃貸マンションを専門に扱う不動産企業のウェブサイト。DMESの枠組みによってサイトを立ち上げてみたが、同業他社と野次馬客しか来なかった。対応に手間ばかりかかり、コンバージョンレート(成約率)はさっぱりだった。2006年の現在ならいざ知らず、2001年ごろのこの時期では、富裕層マーケティングをインターネット上で展開するのには時期尚早だったのである。

ポータルサイトの成功3原則

 こうした試行錯誤を繰り返していくうちに、吉村さんたちクインランドのスタッフたちは、ウェブサイト(ポータルサイト)が成功するためにはどのような要素が必要なのかということを、徐々に認識するようになった。

  1. ポータルを開設した段階から、とにかく圧倒的な情報量が必要
  2. 企業の側が情報を継続的に増やしていくことに限界がある。ユーザーによって情報が自己増殖していく仕組みをつくる
  3. ありとあらゆるポイントで顧客にコンタクトして、注目を集める

 これはまさしく、Web2.0の構成要素である。1.はデータベースであり、2.はCGM(Consumer Genarated Media)だ。そして3.はアテンションエコノミーの応用である。そしてクインランドは、この3原則を盛り込んだ自社サイトを2004年11月にオープンした。Qlepという名称の地域情報サイトである。

 Qlepは主婦向けに絞り込んだ地域ポータルで、朝起きてから朝食を取り、幼稚園や保育園に子供を送り、買い物をして午後は友人とお茶を楽しむ――といったライフイベントごとにコンテンツを細分化し、トップページから検索できるようにしている。

 「従来の地域ポータルの最大の問題は、立ち上がり時に情報量が少なすぎることだった。そこでわれわれは開設時から圧倒的な情報を提供しようと考えて、検索システムを自社開発し、独自の検索連動型広告の仕組みも作った」(吉村さん)

 地域ポータルというと、飲食店や小売店から広告料金をもらって、その情報をウェブサイト上に掲載するという方法が一般的だ。だがこの方法では、どうしても開設時の情報が少なくなる。情報が少なければページビューは増えず、ユーザーも集まらない。そうなればますます広告が取りにくくなり、情報量が増えないという悪循環に陥ってしまう。特に地方で、IT化のされていない小さな小売店や中小企業を相手に広告ビジネスを展開するとき、このハードルを超えるのは非常に難しい。

 そこでクインランドが考えたのは、Googleのようなオーガニックなアルゴリズム型検索エンジンと、検索連動型広告を思い切って融合してしまう新しい検索システムを作ってしまうことだった。ロボット検索エンジンでは、どうしても検索結果に店情報以外のノイズが入ってしまう。そこで手作業で大量の店舗情報を収集し、それらをデータベースに収容してインデックス化した。その上で営業活動を行い、料金を払ってQlepに加盟した店舗に対しては検索結果に写真と店舗概要のテキストを掲載し、さらに店舗専用のページも設けてクーポン券の発行やお買い得情報、掲示板を使ったコミュニティーなども盛り込めるようにしたのである。いわば「ぐるなび」と検索エンジン、それに検索連動型広告を組み合わせたようなモデルである。

 加盟料金は、システム利用料が月額1万円。それに検索連動型広告が月額5000円で、月に1万5000円支払えば、すべてのシステムが使えるようにした。従来のウェブサイト制作と比べれば思い切った値段だが、地方の小さな店舗や中小零細企業から幅広く情報を集めていくためには、この程度の金額が適正だと思われた。

 吉村さんは「それまで地方の小さな零細企業では、ウェブサイトを持っていないところも多かった。持っていても、作ったときのまま放置されていて、情報がまったく更新されていないところも少なくなかった。この状況を改善すれば、大きなマーケットがあるんじゃないかと思った」と話す。

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