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おせっかいなCGMと、フランチャイズが結ぶロングテール【連載第3回】ネットベンチャー3.0(2/3 ページ)

» 2006年08月11日 08時50分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]

驚くほど低い中小企業のネット利用率

 地方の零細企業は、ロングテールである。筆者は『グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する』(文春新書)や新刊の『検索エンジンがとびっきりの客を連れてきた! 中小企業のWeb2.0革命』(ソフトバンククリエイティブ)などで繰り返し書いたが、かつてはロングテールに甘んじて儲かっていなかった地方の零細企業が、検索連動型広告をはじめとするWeb2.0的枠組みを使うことによって、全国に散らばる無数の顧客との新たなマッチングを実現している。だがそうしたマッチングに成功しているのは、ITリテラシーの高い経営者や担当者がいる一部の企業で、大半の中小零細企業は、Web2.0どころかインターネットのことさえほとんどわからないまま、今まで通りの細々としたビジネスを淡々と続けているだけだ。

 もしそうした膨大な数の中小企業がWeb2.0を知り、みずからがロングテールであることに気づけば、それは巨大なマーケットの出現となる。ベンチャーの歴史が長いアメリカでは中小企業とITの親和性が高く、スモール・アンド・ミディアム・ビジネス(SMB)としてIT業界の一分野になっているのに対し、日本では中小企業向けのITサービスはまだ立ち上がったばかりだ。

 たとえばごく最近の新聞記事を眺めただけでも、中小・零細のネット利用度の低さには驚かされるものがある。東京都多摩地区の中小企業で、業務にインターネットを使っている企業は全体の57%しかなく、自社サイトを持っているのはそのうちわずか26%。電子メールの利用率も46%(2006年7月28日日本経済新聞東京経済面)。また群馬県の桐生・太田地域では、全体の29%がウェブサイトを持ち、54%が電子メールを利用(2006年7月7日日本経済新聞群馬経済面)。この記事には、次のように書かれている。

<IT化を進めるために行政機関に望むことは17%が「特にない」と回答した一方、導入企業への資金援助や税制面での優遇を求める意見もあった。IT分野の人材不足を訴える企業も多く、ヒト・カネの両面で課題を抱える中小が多いことが浮き彫りになった>

 こうしたIT化の遅れている中小企業を、どうすればWeb2.0の世界に引っ張り出すことができるのか。クインランドがQlepで取り組んだのは、その難問だったのである。

“おせっかい”なサービスが奏功

 いくら熱心に営業攻勢をかけ、Qlepに登録してくれる中小企業を増やしたとしても、情報が更新されなければ、ユーザーからは離反されてしまう。そうなればページビューが落ちていくという負のスパイラルに陥っていくのは必至で、そうならないようにコンテンツが自己増殖する仕組みを作りあげる必要があった。通常のCGMのロジックでは、運営企業の側は使いやすいインフラを作り上げることに専念し、後はユーザーの自律的な行動に任せるのが一般的だ。だがクインランドは、そうした方法ではITリテラシーの低い中小企業を、CGMの世界に引っ張り出すことはできないと考えた。

 そこで更新を簡単にできるサービスを提供し始めた。店舗専用のページにお買い得情報やセール、特価品、クーポンなどの情報を更新してもらうため、最初はテンプレートを用意し、携帯電話でアクセスして店名と商品名を書き換えるだけで情報を更新できるようにした。しかしそれでもITに弱い経営者は、なかなか手を出さない。そこでさらにおせっかいなサービスを提供するようになったのである。

 「らくらくカンタン更新システム」と名付けられたその新しいサービスでは、業種別にマーケティングカレンダーを作り、月ごとや週ごと、年ごとのセールや特価品情報をある程度データベース化して最初から設定してある。加盟店は登録時にクインランドの営業マンのサポートによってこのマーケティングに手を入れ、あらかじめどの曜日、どの日にちにどんなセールや特価販売、イベントを行うのかを3カ月分入力しておく。設定した日時が来たら、経営者の携帯電話に「このセールを明日Qlepで告知しますが、大丈夫ですか?」というメールが届き、経営者の側はイエスかノーかを答えるだけで自動的に情報が更新されてしまうというシステムである。

 この方式は成功した。最初にオープンしたQlep神戸では、現在約1000店舗が登録し、らくらくカンタン更新システムによって1日に500〜600の情報が更新されている。ランチタイムのお買い得情報や夕方のタイムセールなどの情報が次々に表示され、サイトを見ているだけでも、驚くほどの活況を呈していることがわかる。

 この成功をもとに、クインランドはQlepをフランチャイズ方式で全国展開した。現在は東京や名古屋、大阪、沖縄など全国30か所で地域別のQlepを提供している。

 そしてこのQlepを展開していく中で、クインランドのスタッフたちはあることに気づいた。「中小企業はなぜ中小企業で終わっているのか、ということを考えた。それはITリテラシーの問題ももちろんあるんだけど、それ以上に大きいのが商圏。中小企業みずからが、『自分たちの商圏はこれぐらいの大きさだ』と小さく自己認識してしまっている。中小企業にネットマーケティングを提案しても、『遠いところのお客さんなんかうちには来てくれないよ』と諦めてしまっている経営者が実に多い。こういうふうに考えてしまっている企業に商圏の壁を突破させる方法はないだろうかと、真剣に考えるようになった」(吉村さん)

 そこでこの時期、クインランドは経営多角化の一環として、ゲームソフト販売店網を持っている明響社とアクトを買収していた。2006年になって両社は合併し、NESTAGEという社名になっている。この2社が持っていたゲーム販売店は、全国に約600店。業界全体でゲーム店は1500店舗あると言われ、2社で全体の40%のシェアを持っていることになる。吉村さんはこの販売店網を使って、Qlepで培った中小企業再生モデルをうまく取り込み、新たなロングテールの仕組みを実現できないかと考えたのである。

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