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コラム
» 2006年08月11日 08時50分 公開

【連載第3回】ネットベンチャー3.0:おせっかいなCGMと、フランチャイズが結ぶロングテール (3/3)

[佐々木俊尚,ITmedia]
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“商圏の壁”に新システムで挑む

 クインランドは2005年10月、Glepというゲーム情報のポータルサイトをスタートさせた。過去に発売されたものも含め、さまざまなゲームソフトの情報を提供するコミュニティー型のポータルで、オンライン販売(EC)も行われている。それだけであれば他のゲームサイトとあまり変わるところはないが、Glepにはこれまでになかったような仕掛けが施されていた。

 それは、NESTAGE自体は倉庫も在庫も持たず、NESTAGEの加盟600店に分散して存在している膨大な数の在庫を、EC上で共有するという新たなシステムだった。販売店網はフランチャイジーだから、すでにPOSのデータは共有し、データベース化されている。だからどの店にどんな在庫があるのかはNESTAGE側でリアルタイムで容易に把握することができる。その仕組みを使って、たとえば横浜市青葉区に住んでいるユーザーがGlep上で古いレアなゲームソフトを注文すると、その在庫がどこにあるのかをNESTAGEはPOSデータによって検索。青森県八戸市にある店舗に在庫を確認できたら、八戸の店に対して、横浜市青葉区の客にそのソフトを送るように注文書を送るのである。

 これはロングテールをフランチャイズに適用した、きわめて興味深い試みである。考えてみれば、ロングテールモデルでは必ずAmazonの例が引き合いに出され、「Amazonは従来売り上げの少なかった不人気商品=ロングテールがものすごい勢いで売れ、売り上げの半分近くを叩き出すようになっている」などと説明されてきた。だがこれはAmazonが巨大な物流倉庫を持っているから可能になるのであって、地方の小さな零細店舗にとっては現実的ではない、おとぎ話でしかない。しかしGlepは、この実現不可能に思えた巨大物流倉庫を、全国の零細な小規模店舗にアメーバのように分散させることで実現してしまい、そのクラスターの集積によってロングテールモデルを実現してしまおうとしているのである。

 さらに刺激的なのは、このソフトの販売によって得られた収益は、八戸の店ではなく、ユーザーが住んでいる横浜市青葉区の店に主に与えられることだ。もちろん八戸の店にも一部は分配されるのだが、「店の商圏に住んでいる客からの売り上げは、その店の売り上げになる」という考え方を大胆に適用した結果、こうなった。吉村さんの先の言葉にある「商圏の壁を突破させる」ということを考えに考え、そういう手法に行き着いたのである。

 この収益モデルがうまく機能するかどうかは、まだわからない。地価の安い地方の店の方が売り場面積が広いため、在庫は多いが、しかし商圏内に客は少ない。逆に都市部は在庫は少ないが、客は多い。こうしたアンバランスを、Glepのモデルで吸収できるかどうかは今後の課題だ。

 Glepは2005年秋にサイトをオープンし、2006年春からこのオンライン販売をスタートしている。フランチャイズ加盟約600社のうち、現在までに250店舗前後がGlepのシステムに参加しているという。今のところ、立地の悪い場所にある店舗の方がやはりECに積極的なようだ。

 吉村さんは次のように語る。「フランチャイズで商圏設定されているため、リアルの商圏の切り分けが容易だった。このリアルの商圏とバーチャルの商圏の設定を組み合わせていくことによって、Web2.0的なフランチャイズシステムが実現できるのではないかと考えている」。従来の日本のフランチャイジーは、ただ諾々とFC本部の指示に従い、独自の戦略を立てられないような経営者が少なくなかった。だがWeb2.0の考え方を取り入れることによって、店舗それぞれがより自律的にビジネスを展開する可能性が拓けてくる。

佐々木俊尚氏のプロフィール

1961年12月5日、兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年、毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。1999年にアスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年からフリージャーナリスト。主にIT分野を取材している。

著書:「徹底追及 個人情報流出事件」(秀和システム)、「ヒルズな人たち」(小学館)、「ライブドア資本論」(日本評論社)、「検索エンジン戦争」(アスペクト)、「ネット業界ハンドブック」(東洋経済新報社)、「グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する」(文春新書)、「検索エンジンがとびっきりの客を連れてきた!」(ソフトバンククリエイティブ)など。


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