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コラム
» 2006年09月19日 11時00分 公開

金融・経済コラム:ベンチャーキャピタルとの付き合い方(2)

ベンチャー経営者がベンチャーキャピタルに出資してもらう際にもっとも気になる点の1つ、VC向けに発行する株式の値段について取り上げます。

[保田隆明,ITmedia]

 ベンチャー経営者がベンチャーキャピタルからの投資を受け入れるにあたって、たまに経営者の方が聞いてこられるものに

「ベンチャーキャピタルに発行する株式の株価って高すぎるとまずいでしょ?どれぐらいの値段にするのがいいのでしょう?」

というものがあります。高ければ高い方がいいじゃないか、と思うのですが、「最初に発行する株式の株価が高すぎると、後で経営がうまく行かない場合に株価が最初の価格より下がってしまうから、困る」というのがその理由のようです。ただし、先に結論めいたことから申しますと、こういう心配はするだけ無駄なので、経営者の方はほかのことに気を回した方がいいでしょう。また、そのような心配をされるのであればベンチャーキャピタルから資金調達をするという選択肢は捨てた方がいいかもしれません。

 上記のような質問をされるベンチャー経営者の方は、ベンチャーキャピタルはベンチャー企業の評価においてはプロだという点を見落としている、もしくはプロだとは認めていないのかもしれません。高すぎる株式を購入して投資を行うベンチャーキャピタルは存在しないはずです。なぜかと言うと、ベンチャーキャピタルは

  • ベンチャー企業の適正な株価を分析できるので、株価が高いか低いかは当然判断できる
  • 安く株式を購入したいと思っているので、高すぎる株価で投資することはない

はずです。したがって、いくら会社側、経営者側が高い株価でベンチャーキャピタルに投資をしてもらいたいと思っても実現しないわけです。ですので、「高すぎる株価で投資を受け入れるとまずいでしょ?」と思うこと自体がおこがましいということになってしまいます。

 しかし、ここまで読んで違和感を持つ方も多いかもしれません。それは実際に高値で投資をしてしまったベンチャーキャピタル、もしくは、まんまと高い株価で資金調達に成功したベンチャー企業を知っているからだと思います。

 「高い」という評価は、

  • 投資を検討するときに高いを思う場合
  • 後で振り返って高かったと思う場合

の2つのケースがあると思います。前者の場合は上述したとおり投資は実行されません。少なくともされない「はず」です。

 したがって、「高い」という評価は正確には後になって振り返って「高かった」という場合がほとんどでしょう。それは、後で企業の業績が悪くなって株価が下がったことを意味します。こういう場合、当初の株価が高すぎたというよりも、経営がうまく行かなかったという方が正確でしょう。

 つまり、「高すぎる株価で投資を受け入れたら……」という心配は「業績が悪化したら……」というのを心配するのと同じことです。そのような心配は、世の中の経営者みなが抱えているモノであり、今更取り立てるようなことでもないでしょう。

 業績が悪くなって株価が下がってベンチャーキャピタルから「あんたら何やってんだよ!?」とつめられるのは困りますが、そんなのは当然でありベンチャーキャピタルからの出資を受け入れるということはそういうことなのです。

ベンチャーキャピタルが負うリスク

 また、ベンチャーキャピタルはプロなので、たとえ後で振り返って「あの株価は高かった」と思っても、それを誰か他人の責任にはできないのです。自らがプロとして正しいと思った株価で投資をしたわけですから、失敗をする場合は完全自己責任、これは株式投資の大原則と同じです。

 もちろん、ベンチャーキャピタルが投資をしてから経営陣が仕事をサボっていたのであれば、経営陣は株価が下がった責任は取らないといけないでしょう。経営者は、株主価値を高めることが責務ですので、それが果たせないと当然株主から不評を買い、最悪の場合は解任されるわけです。しかし、解任をするには発行済み株数の3分の2が必要となりますので、経営陣が株式の大半を持っているような企業に投資をするベンチャーキャピタルは経営陣の解任ができないというリスクをも背負って出資をすることになります。それらも含めてベンチャーキャピタルの自己責任になってしまいます。

 2000年のインターネットバブル時に何でもかんでも無節操に投資をした一部のベンチャーキャピタルのイメージを引きずり、ベンチャーキャピタルは適正株価の評価ができないと思い込んでいるベンチャー経営者もいるようです。そのイメージは正しいでしょうか?

 ベンチャーキャピタル自身も、またベンチャーキャピタルに出資する投資家も一度犯した過ちからはレッスンを学んで変わったはずです。いつまでもベンチャー企業の経営陣が以前のイメージを引きずってベンチャーキャピタルの対応をしていると、とんだ思い違いとなってしまうかもしれません。

 ここまでお読みになっても、「いやいや、でも、高値で投資をしているベンチャーキャピタルはたくさんいる!」という声も聞こえてきそうです。確かにそういう実態もあるようですので、その点に関しては次回書きたいと思います。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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