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コラム
» 2006年12月04日 10時00分 公開

金融・経済コラム:PRブロガーと株式アナリストの関係

企業から対価を得ながら商品を紹介するブログの問題を、企業から収入を得つつ株式の評価をしていた数年前までのアナリストとの比較から読み解きます。

[保田隆明,ITmedia]

 最近、企業からお金をもらって商品のアピールをするPRブログの是非が盛り上がりました。最終的には、情報を見た人達が勝手にその情報の信憑性を判断し、そして、信憑性がないと思われた人達にはページの閲覧が集まらないという形で終焉するのではないかと思います。CGMの性質を有する株式市場にヒントがあると思います。

 証券会社には、独自に企業を調査し、株価を予想して投資家に株式の売買推奨情報を提供する株式アナリストが存在します。そして、アナリストが株式の買い推奨リポートを書く代わりに、企業からそのアナリストが所属する証券会社に株式発行の引き受け業務やM&Aのアドバイザリー業務などの仕事を発注するというような癒着がつい数年前まで行われていました。

 証券会社にしてみると仕事がたくさんもらえるし、企業にしてみると自社にとって都合のいい買い推奨リポートを書いてもらうことができて、双方ともに都合のいい癒着でした。裏切られるのはアナリストのリポートを信じて株式を売買する投資家ということになります。

 本来、株式アナリストとは企業の収益状況、将来性を独自に調査し、株式が買いか売りかを判断して投資家に伝えるのが役割です。そして、投資家からどのアナリストの推奨が結果的に良かったかどうかの評価が下されます。投資家に利益をもたらしたアナリスト、つまり、株価がアナリストの推奨どおりに動くといいアナリストということになります。

 証券会社の収入は大きく分けると、投資家の株式売買によって得られる手数料収入と、企業のM&Aや資金調達を手伝うことによって得られる収入の2つがあります。お金の出し手は、投資家と企業です。かつてのアナリストの給与は、この2つの収入源の両方から支払われていました。投資家に売買推奨を行い、その結果が評価されてアナリストとしての優劣が決まるので、本来的には給与は投資家からの売買手数料の中からだけで支払われるべきでしょう。しかし、企業側からの収入も給与に組み込まれるとあっては、当然ですが、ネガティブなことはほとんど書けません。実際、売り推奨の株式リポートは非常に少なかったのです。

 インターネットバブルが弾けると同時に、そして米Worldcomや米Enron事件を教訓とし、アメリカ発でこのアナリストの給与体系と仕事の仕方が変わりました。給与は、当然ですが、投資家からの売買手数料だけから支払われることとなり、M&Aや資金調達のアドバイザリーの仕事を獲得するために、証券会社がアナリストを企業訪問に同行させることはなくなりました。完全にアナリストの独立性を高めたのです。そうすることで、投資家を裏切らない体制を構築しました。

 さて、ブロガーとブログ読者、そしてブロガーに自社商品PRをお願いする企業に関して、上述の株式アナリスト周りの問題を考えてみると、ブロガーはブログを読んでくれる人が存在して初めてブロガーたりえます。ブログ読者に感謝される内容を書いて初めて読者は継続的にブログを訪問しますし、ブロガーがブロガーたりえるわけです。

 ここで、ブログ読者と投資家の立ち位置が同じということになります。

 しかし、投資家は売買手数料という形でお金を証券会社に落としますが、ブログ読者はブロガーに金銭をもたらしません。もちろん、ブログ読者がたくさんついて、ページビューが高いブログになると、広告を出稿することで収入を得ることは可能でしょうが、それは直接的にブログ読者から得ているわけではありません。その分、証券会社が投資家を大事にするほどにはブロガーがブログ読者を大切にする必要性はないのかもしれません。もちろん、あくまでも経済的観点から考えた場合ですが。

 ブログ読者が金銭的リターンを提供してくれないのであれば、企業から収入をいただきましょう、ということになります。ブロガーにPRをお願いする企業は「良いこともネガティブなことも、正直にご自身が思ったままに書いてください。無理して褒める必要はありません」とは言います。しかし、企業から収入を得るのであれば当然ですが、あまりネガティブなことは書けません。実際にはPRブログと呼ばれるもので、商品のネガティブ情報を書いているものは多くありません。

 これは、株式アナリストが売り推奨リポートを書かなかったことと似ています。

 さて、その株式アナリストですが、企業側から給与をもらうことをやめて、完全に投資家に向いたモラルと独立性が確立されるようになったのであれば、最近は売り推奨のリポートも増えているだろうと想像しますが、実際には売り推奨リポートはあまり増加していません。

 売り推奨は書けないというのがそれまでの証券会社の慣例でした。給与体系や独立性の担保が変わったとは言え、そう簡単には体質は変わらないのです。売り推奨を書くことは、勇気ある行動だと見られる場合もありますが、なんらかの別な理由があって書いているのではないかという見方をされる場合があります。例えば、あまり有名でないアナリストが自らの売名行為のために行う場合や、なんらかの理由でその企業の株価が下がって欲しいと思っている証券会社のアナリストが書く場合など。実際にはそういう理由での売り推奨リポートは少ないのですが、しかし、通例でないことをすると必ず穿った見方をされるのも常です。書く本人も、売り推奨というネガティブなものをわざわざ書いて、企業と軋轢を起こしたり、うがった見方をされるぐらいであれば、その株式のリポートは書かないという選択肢を取ることが多いでしょう。

 投資家は、もちろんもっと多くの売り推奨リポートを欲しがるでしょう。しかし、株式アナリストの状況は理解していますので、多くの売り推奨リポートが出てくることを本気で期待しているわけではありません。むしろ、アナリストが書かない企業に関してはそれほど積極的な見方をしない、また、アナリストの推奨は「買い推奨」を「様子見」、「強い買い推奨」を「普通の買い推奨」ぐらいの感覚で見ていると思われます。投資家の間で、アナリストの状況を勝手に理解した上での、拡大解釈を行い、それがコンセンサスとなっているのです。

 ブログにおいても、明らかにおすすめ商品であればブログで書くでしょうが、いまいちな商品に関しては、わざわざネガティブ情報をご披露するよりは、ブログでそのような商品のことは触れないという選択肢の方が楽でしょう。よって、自然とPRブログにはポジティブな内容のものが増えていくはずです。

 PRブログを読むブログ読者も、今後、自分たちでそのブログの状況を理解し、内容を拡大解釈し、勝手に評価をディスカウントして読むようになるかもしれません。今はまだPRブログの歴史が浅いゆえに、書く側、読む側でのコンセンサスが形成されていません。よって、炎上も起こるのですが、ある一定のコンセンサスが得られるようになれば、PRブログの炎上事例も減っていくものと思われます。そして、株式投資に今日みなのない人が株式アナリストに興味を持たないのと同じように、PRブログに興味のない人にとっては、炎上もどうでもいいこととなるでしょう。

 株式アナリストも、完全に企業と癒着していた人達は解雇されました。そして、アナリストの立ち位置も時代とともに変遷してきたのですが、PRブログも同様に、あまりに企業と癒着している人は当然ながらブログ界から炎上という形で追い出され、立ち位置は変わっていくと思われます。PRブログの炎上なんて騒いでいた時代もあったよね、なんて振り返る日も来るでしょう。もちろん、PRブログという形態のものが、株式市場のように今後も存続し続けるのであれば、という前提でのお話ですが。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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