個人の権利のために立ち上がることは、ときには、単なる主義の問題ではなく、良識の問題となる。
米カリフォルニア州オレンジ郡上級裁判所の元判事であるロナルド・C・クライン被告が児童ポルノ所持で起訴されたのは、まさにそれに当てはまるケースであり、コンピュータセキュリティと大いに関係する問題でもある。
クライン被告は児童ポルノ画像をダウンロードしたとされており、そのなかには、トロイの木馬を含むものもあった。それは、Citizen Tipster(民間の垂れ込み屋)を名乗るブラッド・ウィルマンという名のカナダ人がオンラインに置いていたものだ。わたしが入手した情報によると、こうした画像はどうやら、コンピュータの脆弱性を利用して悪性コードを実行できるようになっていたようだ。
クライン被告がそうした画像を自分のコンピュータにロードすると、ウィルマン氏はほかのボット使いと同様、そのコンピュータへのアクセス権限を得て、何でも好きな操作を実行できた。例えば、クライン被告の身元を示す証拠を探したり、それを当局に渡したりといったこともできたはずだ。そして、ウィルマン氏はまさにそれを行った。政府は、明らかに違法な手段により入手されたものであるにもかかわらず、その証拠を進んで受け入れた。そして政府はウィルマン氏を起訴しないとまで明言。そのおかげで、彼はいまだにそうしたハッキング行為を続けている。
実際、法的基準では、政府やその捜査官が入手したものでない限り、そうした証拠は受け入れられることになっている。政府は、リベラルな判断を下すことで有名な連邦第9巡回控訴裁判所に対し、ウィルマン氏が政府の捜査官ではないということをうまく説明してのけた。
信じられないような話だが、これは特殊なケースではない。わたしは数年前にも、これとよく似たケースについて記事を書いたことがある。その訴訟では、ハッカーは法廷において「Unknownuser」というハンドルネームでしか特定されず、その後、結局、トルコ在住の男性であることが分かった。だがFBI、そしてのちにバージニア州は、反対尋問すら行うこともできない匿名の外国人による証拠を受け入れ、最終的には、裁判所までもがそれを受け入れた。
このバージニア州のケースは、多くの点で今回よりもひどいものだった。なにしろ政府は、Unknownuserが以前にも別の訴訟用に証拠を提出していたことから、彼にハッキング行為を続けるよう積極的に奨励したのだ。そして、彼を起訴しないとも明言した。わたしに言わせれば、この時点で、Unknownuserの立場は明らかに政府の捜査官だ。だが、保守的なことで知られる連邦第4巡回控訴裁判所はFBIに味方する判決を下した。そして、この訴訟は少なくとも今までのところは、その段階で終了している。
これまで読んだ記事を基に判断すれば、特に先日、有罪判決が下ったこともあり、わたしだって、クライン被告は有罪と考えたくもなる。だが、彼は単に、突きつけられた証拠に圧倒され、刑を軽くしてもらえるよう自白しただけ、ということもあり得ないことではない。
ウィルマン氏やUnknownuserが見つけた証拠が信頼性に欠けているのは、まず間違いない。彼らが使っているタイプのトロイの木馬であれば(UnknownuserはSubsevenを使っていた)、証拠をでっち上げるのは、証拠を見つけるのと同じくらい簡単なことだ。それなら、わたしだって、読者の皆さんのコンピュータ(そう、まさにあなたのコンピュータ!)に侵入し、そこに児童ポルノ画像を置いた上で、FBIに匿名で通報し、あなたを捕まえさせることができてしまう。あるいは、金を払わないなら通報するぞ、と脅すことだって可能だ。これは法制度としていかがなものだろう?
ただし、裁判所の判断に関して言えば、この証拠がどれほど腐ったものであるかを裁判所が理解していなかったのか、それとも、罪状が罪状なだけに、裁判所はあえてその点に目をつぶったのか、そのどちらであるのかは、わたしには分かる。クライン被告は何年も前から世間のさらし者にされており、あるラジオ局など、彼の自宅の外で泊まり込み体制をとったほどだ。
当節、児童ポルノ所持の嫌疑をかけられた人物の権利を守ろうとするくらいならば、アルカイダメンバーの権利を守ろうとする方が、まだ周囲の理解を得られそうだ。どのような罪を問われているのであれ、誰もが一定の権利を有しているということは否定すべきものではない。罪を問われている人のなかには無罪の人もいるはずであり、被告に対する証拠は常に厳しい基準に従って処理すべきだ。Unknownuserやウィルマン氏のような人物に頼っていたのでは、満たせないような基準だ。さもなければ、彼らに嫌われないよう祈るほかない。
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