これまで3回にわたって、レコメンデーションの最先端がどうなっているのかを、眺めてきた。延々とリコメンデーションの細かい話について書いてきたのには、理由がある。第1回で書いたように、レコメンデーションが人間の「認知限界」を突破し得る重要なアプローチとなっているからだ。
この背景として忘れてはならないのは、インターネットの利用者層が急激に拡大しているという事実だ。これまでのインターネットユーザー――いわゆる「イノベーター」や「アーリーアダプター」と呼ばれるような先端層の人たちであれば、情報の洪水に溺れることはなかった。いや逆に、商品や情報が増えれば増えるほど、いっそうワクワクとその世界に没入してしまう人たちだった。言ってみれば彼らは情報を操る人形使いのような人たちであって、奔流のような情報にうまくをうまく仕切り、情報の流れにうまく棹さすことを大いなる喜びにしているのである。だから例えばデジカメなどの家電を購入しようとするとき、スペックをうまく切り分けて自分の欲しい商品を選び出すことに苦痛は感じない。逆に多様なスペックからどう自分の選択肢を抽出するのかという、その技巧に気持ちよさを感じていたのである。
ところがいまや、インターネットのユーザー層は拡大し、キャズム理論(参照:情報マネジメント用語事典)で言う「アーリーマジョリティ」や「レイトマジョリティ」の人たちがECサイトなどに流れ込んできている。この層の人たちは、イノベーター層に比べれば認知限界がとても低い。情報を操るスキルは持っていないし、情報の洪水にすぐに溺れてしまう。つまりはいまこの記事を読んでいるあなたのお母さんやお父さん、おじいさん、おばあさん(あるいは近所のオジサン)といった人たちである。
このような人たちの住んでいる世界というのは、きわめて直感的かつ曖昧な世界である。商品の選択や検索、レコメンデーションに、従来のような的確なロジックを求めているわけではない。どちらかといえば彼らが求めているのは、よりリアルの社会感覚に近いファジーなインタフェースだろう。
例えばあるオジサンが奥さんから離縁され、しかたなくひとり暮らしのできるマンションを探しているというシチュエーションを考えてみよう。
リアルの商売というのは、こんなふうなやりとりで成り立っている。レコメンデーションは常に曖昧で、アルゴリズムでは計算しきれない。顧客の側が提示する条件ははっきりせず、そもそも条件が明確に言葉にできるのかどうかさえ、顧客の側は認識できていない。上記の会話にあるように、相手(企業)とのコミュニケーションの中で、自分の求めているニーズや条件にようやく気づいてくるということが多い。逆に言えば、有能な商売人であれば、顧客の秘められたニーズをうまくコミュニケーションによって引き出し、そこから最適なレコメンデーションを行う暗黙知を身につけている。
そしてこうしたリアルでファジーなレコメンデーションシステムに慣れているマジョリティの人たちに、どのようにしてインターネット上で的確なレコメンデーションを行うかというのが、実のところこれからの大きな課題となってきている。行ってみれば暗黙知であるリアルレコメンデーションのナレッジ化、可視化というテーマである。
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