ITmedia NEWS > 社会とIT >

レコメンデーションの虚実(5)〜「もうちょっとだけ環境の良い場所ない?」をアルゴリズムに持ち込む方法ソーシャルメディア セカンドステージ(2/2 ページ)

» 2007年10月09日 11時00分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]
前のページへ 1|2       

ファジーなレコメンデーションに挑戦するベンチャー

 このアプローチを試みているベンチャー企業の例を挙げてみよう。「リコメンデーションの専門企業」を掲げている株式会社ALBERT(アルベルト)は、インターネットの市場調査会社インタースコープ(現:ヤフーバリューインサイト)でレコメンデーションの開発を行っていた上村崇社長らが、通販大手のニッセンなどからの出資を受けて2005年に設立した企業である。

 ALBERTの運営するサイト「教えて!家電」では、商品を購入しようと考えた人が、スペックを気にしないでレコメンデーションを受けられるというサービスを提供している。

 例えばこのサイトの「家電選びナビゲータ」で、デジタルカメラを選択してみる。最初に「一眼レフか、中小型タイプか、カードスリムタイプか」という選択肢があり、ついで上限価格やメーカー名、記録媒体を入力する画面に移るが、「決めていない」と返答しても構わない。この後、さまざまなデジカメの機能について、それぞれをどれだけ重視するかを入力することを求められる。

 「乾電池が使える」「手ブレ補正機能がある」「カラーバリエーションがある」「価格が安い」「バッテリーの持ちがいい」「画質がいい」「光学ズームの倍率が高い」「なるべく軽い」「過度な重さである」「シャッタースピードが速い」「接写性能がいい」「液晶画面が大きい」

 これらの選択肢に対して、「まったく関係ない・わからない」「ほとんど重視しない」「やや重視する」「非常に重視する」「きわめて重視する」など7段階でスライダーを動かし、設定していく。スライダーの設定が終われば、自動的にお勧めのデジカメがいくつか表示されるという仕組みだ。

商品を選ぶ基準の提示や評価基準のぶれに対応

 ALBERTの上村社長は、次のように話している。「市場の拡大で、レコメンデーションの求められている領域が広がってきている。例えばデジカメだったら、以前はスペックをきちんと把握している人がほとんどだった。ところが今は『ニーズありき』となって、スペック自体にはあまり興味がない人が多い。『500万画素で起動時間が0.2秒というのは分かったけど、そのスペックは私のニーズにちゃんと応えているわけ? いくら数字を羅列されても、それが分からなければ意味がない』と考える人が増えている。そういう人たちにどのようにしてレコメンデーションを行うのかということ」

 もっと言えば、どのような基準で商品を買えばいいのかという、その基準にさえ気づいていない人は案外多い。「パソコンを買いたいんだけど、何を基準に選べばいいの?」というのは、よく耳にする疑問だ。そうであれば、その「基準」をレコメンデーションの際にユーザー側に見せてあげることによって、始めてユーザーがそのニーズを思い出すという「気づき」も期待できる。先ほどの「家電選びナビゲータ」で「バッテリーの持ち」というスライダーを見て、初めて「あ、デジカメにはバッテリーの持ちも大事なのか」と気づくお年寄りは少なくないだろう。

 さらに言えば、この評価基準自体も時代によって揺れ動く。デジカメに関して言えば、かつては最大の選択要因は画素数だった。画質が良いものを購入したいという人が圧倒的に多かったのだが、しかし画素数競争が行き着くところまで行ってしまうと、画素数に興味を持つ人は少なくなり、最近は手ブレ補正やバッテリーの持ちに興味関心が移っている。デジカメの何に人々が興味を示すのかというのは、メーカーでさえもつかみきれない流動的な要素なのである。この人間的で曖昧な世界を、どう統計学的なマイニングに持ち込んでいくのかというのが、技術系ベンチャーの腕の見せどころとなっているわけだ。

 ALBERTは、「ファジイ検索システム(FSS)」という名称で、条件をあいまいにしたまま検索できる仕組みも提供している。先ほどのデジカメで言えば、ユーザーは「メーカー」「価格」「画素数」「光学ズーム」などの条件を入力して商品を探すことができるが、これまでの検索では条件にマッチしないものは表示されなかった。例えばユーザーが「5万円以下」と検索条件を設定すると、5万1000円のデジカメは表示されない。だが先の不動産屋との会話にもあったように、「うーんお客さん、5万1000円出してもらえればピッタリのがあるんですよね」「そうかあ、じゃあちょっと触ってみようかな」というようなやりとりは家電量販店の店頭では、ごく普通に見られる光景だ。こうしたファジーさをアルゴリズムの世界に持ち込んでいくことが、いまや必要な作業となってきているのである。

関連キーワード

検索 | ベンチャー


佐々木俊尚氏のプロフィール

ジャーナリスト。主な著書に『フラット革命』(講談社)『グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する』(文春新書)『次世代ウェブ グーグルの次のモデル』(光文社新書)など。インターネットビジネスの将来可能性を検討した『ネット未来地図 20の論点』(仮題、文春新書)を10月に刊行予定。連絡先はhttp://www.pressa.jp/


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.