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知ってるようで知らないノーベル賞の話科学なニュースとニュースの科学

» 2008年12月05日 17時16分 公開
[堺三保,ITmedia]

 今年は日本人の受賞者が続出して、すごく話題になったノーベル賞だけど、実のところ、どういうものかちゃんと分かってる人はけっこう少なかったりするんじゃないだろうか。

 というわけで、今回はノーベル賞について少々うんちくを傾けたい。

photo ノーベル賞の公式サイト

 ノーベル賞というのは、ダイナマイトの発明者として有名なアルフレッド・ノーベルの遺言によって、1901年から始まった世界的な賞で、科学及び人文分野における多大な功績をあげた人物もしくは団体に与えられる。

 部門は、物理学賞、化学賞、生理学・医学賞、文学賞、平和賞、経済学賞の6部門あり、物理学賞、化学賞、経済学賞の3部門についてはスウェーデン科学アカデミーが、生理学・医学賞はカロリンスカ研究所が、平和賞はノルウェー国会が、文学賞はスウェーデン・アカデミーがそれぞれ選考を行っている。

 なんでスウェーデンで開催されてるのかというと、ノーベルがスウェーデン人だったからという単純な理由による。

 選考がスウェーデンやノルウェーなので、授賞式もやはりスウェーデンのストックホルムとノルウェーのオスロ(平和賞のみ)で開かれる。

 なぜか数学賞は存在せず、数学の世界における世界的な権威はフィールズ賞が担っている。

 毎年1回行われるあたりは、例えばアメリカ映画のアカデミー賞のような芸術に与えられる賞と同じだが、最大の違いは、研究が最初に発表されてから、それが認められて受賞するまでに、期限がないこと。

 映画とか小説の賞の場合、前年1年間に公開や出版された作品が対象になるけど、ノーベル賞の場合、その研究が真に偉大な業績であることが認められてから、ってことになるので、どうしても時間がかかってしまう。革新的な内容ほど、他の研究者からの同意を得るには、何度も追試や検証が行われないとダメってわけ。

 最長の場合だと、最初の研究が発表されてから、受賞までに50年以上かかったという例もあるくらい。

 とはいえ、期限がないってことは、いつ誰が受賞するか、さっぱり分からないってことだし、選考基準も外からは見えないうえに、一つの研究成果について受賞は3人までと決められているので、選考結果について「それはちょっとおかしいんじゃないの?」って声が上がることもある。

 まあ、賞と名のつくものには、その手の「妥当性」の問題はつきものなんだけど、特にノーベル賞は「時間差」がついてまわるので、話がややこしくなりがち。

 例えば、アインシュタインがノーベル物理学賞を受賞したのは、かの有名な「相対性理論」でじゃなくて、「光電効果の発見」によるものだったりするしね。

 あと、もはやタイトル聞いただけでは、一般人にはいったい何がすごいのか、さっぱり分かんないってところも、ノーベル賞の特徴かも。なんだかとってもすごいらしいけど、何がどうすごいのか、さっぱりなんだよね。

 今年の物理学賞を受賞した小林誠、益川敏英両博士の研究は「対称性の破れによるクオーク世代の予言」、同じく今年の化学賞を受賞した下村修博士の研究は「緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見とその開発」だそうな。

 「対称性の破れによるクオーク世代の予言」というのは、当時まだ3種類しか発見されていなかったクオークが6種類以上存在することを予言したってことで、「緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見とその開発」はその名の通り、今では遺伝子研究用に活用されている蛍光タンパク質を発見したってことだとか。

 後者はとりあえず「便利なものを発見・開発したらしい」ってことがなんとなく想像できるけど、前者は、それがどれだけすごいことか、一言で言われても門外漢には全然ピンときませんな。

 ちなみに、前者は73年、後者は62年に論文が発表されてるというんだから、ほんと、ノーベル賞ってのは、なんとも気の長いものであるよ。

photo イグ・ノーベル賞の公式サイト

 一方、こちらも今年、日本人の受賞者が出て話題になったイグ・ノーベル賞だけど、これはノーベル賞とは何の関係もない。

 1991年に始められたこの賞は、「笑える」研究に与えられるというところも含めて、あくまでもお遊び、というか、ノーベル賞のパロディという立ち位置を取っている。

 そのせいで、あきらかなニセ科学なんかに(皮肉として)賞を贈ったりすることもあるから、受賞したら怒っちゃう人もいるけど、実際にはちゃんとした研究に贈られていることも多い。要は「ユーモア」を解するかどうかってところが肝なわけ。

堺三保氏のプロフィール

作家/脚本家/翻訳家/批評家。

1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。最近の仕事では、『ダイ・ハード4.0』(翻訳:扶桑社)がある。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。

ブログは堺三保の「人生は四十一から」


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