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MicrosoftストアはAppleストアを脅かすか

» 2009年02月19日 08時30分 公開
[Joe Wilcox,eWEEK]
eWEEK

 Microsoft直営店はAppleの不安の種になるだろうか――もしもその店がMicrosoft的ライフスタイルを売るのなら、答えはイエスだ。もしも小型版Wal-Martになるのなら、Appleは笑いが止まらないほど大もうけできるだろう。

 デビッド・ポーター氏は2月16日、Microsoftの小売り担当コーポレート副社長としての仕事を始めた。彼はその前にDreamWorks Animationに2年間、Wal-Martに25年間勤めていた。彼の最初の役目は、Microsoft直営店のプランを立てることだ。

 わたしは以前から、Microsoftは直営店を持つべきだと唱えてきた。Appleが成功しているからではない。Microsoftは深刻なマーケティングの問題を抱えている。Appleも同じ問題に見舞われ始めている。その問題とは、製品が複雑なためマーケティングがややこしくなるというものだ。簡単にまとめると、以下のような点が問題だ。

  • 製品のメリットが増殖する傾向にあり、それが売り込みを難しくしている。MicrosoftのウィジェットAは優れている。だが、ウィジェットB、Cと一緒に使うともっといい。Microsoftはこのコンセプトを「better together(一緒だともっといい)」と呼んでいるが、マーケティングの観点からすればむしろひどい。Appleの場合はそこまで難しくない。iPodやiTunesなどの人気製品は初めは優れた機能を1つ持っていて、時間とともに機能が拡大していく。顧客は基本的な機能をよく理解している。新機能はそれと関連した、強化版のものになる傾向がある
  • 小売業者の方がMicrosoft製品のメリットをうまく宣伝できるだろうが、そうでないことが多い。たいていはいまだに、メリットよりもハードとソフトのスペックや機能を売り込んでいる。Appleも直営店以外では同様の問題を抱えている
  • 誰もMicrosoft的ライフスタイルを売っていない。成功しているブランドのほとんどは、自社の製品と関連したライフスタイルを売り込んでいる。Apple、Harley-Davidson、Nokia、Pepsiはいずれもライフスタイルブランドだ。Pepsiブランドの中でも、Mountain Dewはおそらくライフスタイルマーケティングの最高の例だろう。短縮形の「Mtn Dew」というロゴが付いた公式サイトは、ライフスタイルのアプローチを示している。Apple StoreはMacライフスタイルを宣伝している。Microsoftにはそういったものがない

 これがMicrosoftが直営店を開くべき理由だが、同社の幹部にはまた別の理由があるのかもしれない。主な理由がAppleなら、Microsoftストアは開店前から失敗する運命にあると予言しておく。Appleをつぶすというのは、小売店を開く理由として間違っている。

バリュー路線か、かっこいい路線か

 Microsoftの直営店計画について、Twitterには多くのコメントが書き込まれている。ジム・ホンはいい点を突いている。「Microsoftはどんなブランドイメージを追求するんだろうか? ブティック型か、安売りか。かっこいいのか、実用的なのか」

 Microsoftが直営店で追求できる道はいろいろある。

  • Wal-Mart方式でバリューを強調する。MicrosoftのソフトとOEMパートナーのハードは低価格でたくさんの機能を提供する。バリューマーケティングはいわゆる「Apple税」――Microsoftが言うところの、PCと比べてMacに上乗せされている割り増し価格――を強調するものになる。Appleはこういう店が自社の直営店と同じモールにあると嫌がるだろう
  • かっこいい路線でゲームやエンターテインメントを強調する。つまり、Xbox 360や、サードパーティーの製品でXboxをクールにカスタマイズする方法を中心にするということだ。Zuneの売り場もあるだろうし、Windows Mobile携帯もあるだろう。ここでのテーマは2つ。Microsoftのソフトとサービス、あるいはサードパーティーの製品を使って、楽しむことと、交流することだ
  • 実用性を強調するアプローチは、中小企業がターゲットになる――Microsoftを採用して費用対効果を高める方法を売り込む。だが、ライフスタイルにも実用的な面はあるだろう。個人のライフスタイルと、仕事人としてのライフスタイルは、次第に重なる部分と異なる部分を同時に持つようになっている。職場・学校と家庭で同じ製品を使うことも多い

 ジムの疑問は的を射ている。彼の疑問への答えはいずれも「イエス」であるべきだからだ。Microsoftは価格志向で、同時にかっこよく、実用的な直営店を開かなくてはならない。店舗を4分割するのが賢明だろうが、Appleと同じやり方ではいけない。Appleストアはかつて、写真やビデオなどのライフスタイルの機能によってセクション分けされていた。今はより製品を中心にした分け方になっている。Microsoftはもっと大胆に、それぞれの区画で異なるデジタルライフスタイルを扱うべきだ。

ティーンを狙え

 わたしなら、Microsoftストアの中心には、動きや興奮に満ちたハブを置く。Microsoft的ライフスタイルのさまざまなかっこいい面や、各種の製品がどう連係するかをスクリーンに映し出す。周辺にはライフスタイル別のセクションを配置する。ビジネス、ゲーム、モバイル、音楽、スクール、ティーンという区分けはどうだろうか。

 ティーンはMicrosoftにとって最優先で売り込むべき層だ。その理由を以下に挙げる。

  • AppleとGoogleはティーン層を自社製品にうまく引きつけている
  • アナリストは今のティーンはブランドに忠誠を持たないと言っているが、それは間違いだ。群意識というものがある。ティーンは友人が使っているブランドに忠誠を持つ。友だちがMicrosoftを買えば、皆Microsoftを買う。あるいは、Appleを
  • 景気低迷の中でも、ティーンの可処分所得は多い

 MicrosoftがAppleのまねをするのなら、レジは端に置くか、まったく置かないようにするべきだ。携帯型POSデバイスを使うAppleのやり方は非常に素晴らしい。Microsoftも同じようにするべきだ。何しろ、Appleストアで使われているPOSデバイスはWindows Mobile/CEを搭載しているのだから。

Nokiaとソニーの混合スタイルで

 Microsoftストアの一番のお手本はAppleではなく、Nokiaとソニーの混合型だ。両社ともマーケティングと販売チャネルに関して、以下のようにMicrosoftと同様の問題を抱えている。

  • さまざまな製品を提供している
  • 製品を多くの小売業者を通じて販売している(例えば、チャネル内で衝突が起きる)
  • 各店でさまざまなデジタルライフスタイルを売り込んでいる

 ソニーは「SonyStyle Store」という名称ですべてを物語っている。ライフスタイルがポイントで、Microsoftのように、「一緒に使うともっと良くなる」製品を多数販売している。ソニーは最近、直営店にBackStageブースを置いている。AppleのGenius Barのように、技術的な支援をする場所だ。ソニーはまた、SonyStyleサイトでBackStageを宣伝している。MicrosoftストアもAppleやソニーと同様のサポート・トレーニングサービスを提供し、Microsoft的ライフスタイルのプロモーションに重点を置くべきだ。

 ソニーが米国で約60カ所に店舗(直販店含む)を置いているのに対し、Nokiaは同国の2カ所で旗艦店を営業している。米国ではNokiaはあまりマーケティング活動をしていない。米国よりもアジア、アフリカ、欧州の方が携帯電話が売れるからだ。IT企業の中で、Nokiaはライフスタイルマーケティングのゴールドスタンダードだ。Appleよりもずっと優れている。

 わたしが提案するMicrosoftストア案は、ライフスタイルの強調が目的だ。同社はもっと具体的で人々が共感するものを求めているのかもしれない。それが「I'm a PC」なのかもしれない。

 Microsoftは単に自社の技術を売るのではなく、かっこいいライフスタイルを売り込むようなやり方でそれを使わなければならない。ハイテクテーブルSurfaceTouch Wall、Windows 7のマルチタッチスクリーン、Photosynthを使ったデジタルカメラのデモ、WorldWide Telescopeを使った学習エリアを置くべきだ。Songsmithカラオケコーナーはどうだろう?

タイミングは完ぺき

 Microsoftが直営店に乗り出すタイミングは最悪だと示唆する論評も幾つか読んだ。そうした論評は、多くの小売業者が破産しているときに、新たに小売店を立ち上げるのは正気じゃないと主張している。それこそが間違い。間抜けな考え方だ。この不況で、2009年は新しい小売りチェーンを立ち上げるのにいい年になる。その理由を以下に挙げる。

  • Microsoftの小売りチャネルは縮小している。今年、あるいは来年破綻する家電量販店はCircuit Cityが最後ではない
  • 小売店用の不動産価格は下がっている。ショッピングモールのマネジャーはすべてのテナントが店をたたんでいることに取り乱している。Microsoftは複数年契約を結んでくれる素晴らしいテナントになるだろう。モールは契約を取れるだろうが、おそらく賃料は安くなるだろう。彼らはテナントがなくて困っている。Microsoftにはそれが分かる。Microsoftほどいい条件で交渉できる企業はない。契約条件はMicrosoftに有利なものになる
  • Microsoftには小売店に投資する金がある。うまくデザインして人通りの多いモールに出店すれば、マーケティング的にはそれで採算が合う

 Microsoftはビジョン次第で成功するか、あるいは失敗する。Wal-Mart方式で行くのなら、デビッドには小売業での経験があり、Microsoftがわざわざやることではないはずだ。1月に披露した偽ストアのような構想なら、それもまた、わざわざやる理由がない。きまじめなMicrosoftは大胆にならなくてはならないし、Appleがやったことを小売りでやらなくてはならない。それは競争相手を時代遅れに見せることだ。それができなければ、AppleはMicrosoftストアのことを心配する必要はない。

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